研究課題/領域番号 |
16H05721
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
氏家 達夫 名古屋大学, 教育発達科学研究科, 教授 (00168684)
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研究分担者 |
筒井 雄二 福島大学, 共生システム理工学類, 教授 (70286243)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 事故の記憶 / 不安 / 生活スタイル |
研究実績の概要 |
スウェーデンで刊行された調査報告書のうち住民の心理学的反応の調査を含む6つの報告書を抽出して日本語訳を作成し、内容分析を行った。その結果、汚染の強かった地域の住民と非被災地域の住民で、事故の受け止め方やその後の経過が大きく異なることが分かった。被災県住民では、調査対象の7割が事故から3年後も食習慣や生活スタイルの変化を継続し、生活スタイルの変化は住民のQOLの低さと関連していた。生活スタイルの変化は汚染への不安や行政の勧告内容の変更(上限値引き上げ)の理解不足、行政の情報提供への不信による。被災県住民では、10年後も事故の記憶が生々しく残っているし、行政の情報提供や対応への不満や批判も根強く残っている。被災地域の住民の心理的状況のより長期的な経過については未解明であり、今後の検討が必要である。 スウェーデン放射線防護庁は、1986年11月に、「チェルノブイリのその後」というパンフレットを全世帯に配布したが、その効果は非被災地域の人々で大きく、被災地域の人々や特に女性の不安を低下させる効果を持たなかった。この結果は、情報提供のみでは住民の不安を解消しきれないことを示唆している。 キエフ国立大学社会学部長、副学部長の協力を得て、ウクライナ科学アカデミー社会学研究所が1995年から刊行してきた、「チェルノブイリと社会」12巻と基本図書7冊を収集した。それらは、チェルノブイリ事故への被災住民の心理社会的反応の調査結果をまとめたものであり、これまで収集がむずかしかった資料である。 キエフ国立大学の2氏とウクライナの5つの社会心理リハビリテーションセンター長から、事故から30年経過した時点での住民の心理学的状況と心理社会リハビリテーションセンターの機能についてヒヤリングを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度予定していたサミの人々へのインタビュー調査は、サミの人々とのスケジュール調整がつかず、今年度実施できなかった。しかし、実際の調査に協力してくれるドロッツ・ショーベリ教授(Norwegian University of Science and Technology)及びスクートルッド博士(Norwegian Radiation Protection Authority)との協議で、調査地(スノーサとレーロース)や調査内容、調査方法を確定した。 ウクライナでは、これまで収集することができなかったウクライナ科学アカデミー社会学研究所の報告書13巻のうち12巻を収集できた。これらの資料から、ウクライナで発生した犠牲者シンドロームの実態や発生にかかわる要因を分析することが可能となった。なお、報告書の内容分析のための準備として、長崎大学の高橋純平氏と福島県立医科大学のLyamzina博士に協力依頼をし、協力の了承を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
ノルウェーでの調査に準備を進めている。調査地は、ノルウェー北部のスノーサとレーロースに決定した。調査時期は2018年9月を予定している。今年度の調査で、事故後10年間、被災住民の不安が継続していたことが分かったが、来年度のインタビュー調査で、さらに長期の心理的影響の実態が明らかになると期待している。 ウクライナで収集した資料の分析の準備が整っているので、2018年度にその内容分析を行う。 本研究課題とは独立に、福島大学、広島大学と共同で、ウクライナの被災住民を対象とした調査を行っているので、本研究課題の結果とその結果を関連付けることで、福島の今後を見通すための重要な手がかりを見つけ、犠牲者シンドローム発生を防ぐ要因を明らかにしたいと考えている。
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