ノルウェーとスウェーデンで汚染の程度が強かった山岳地域に暮らす人々12組16人を対象に、事故当時の生活状況や事故を知った時の心理的反応、その後の経過についての聞き取り調査を行った。16人の内訳は、男性12人、女性6人であった。事故当時トナカイ・牧畜に関わる仕事をしていた。13人は現在もトナカイ・牧畜に関わる仕事をしていた。 次の4点が明らかになった。1.当初の予想に反して、ノルウェーとスウェーデンの山岳地域には、放射能汚染の影響が長期間継続していた。2.トナカイ肉やキノコが汚染された。肉は大量廃棄され、値崩れの状態が長期間続いた。放牧やトナカイ肉食といったサミの人々の生活スタイルやアイデンティティに危機をもたらした。自分たちの被ばく量を長期間知らされなかったこともあり、経済的危機は心理学的問題と密接に関連しながら、放射能汚染の影響は長期間継続した。3.当時の人々のむずかしさは、情報不足で強められていた。情報不足には、情報がなかったという量的な問題と提供された情報が彼らの必要と乖離していたという質的な問題の2面があった。専門家が長期間滞在して、人々の必要とする情報提供を行っていたケースがあった。そのような専門家の関りは人々のウェルビーイングを高めることに効果的であった。 前年度収集したウクライナ国立社会学研究所の紀要から、犠牲者シンドロームと関わる論文5本を日本語訳し、内容分析を行った。その結果、犠牲者シンドロームの中核にある受け身的で内向きの態度が、避難・移住による環境や生活様式の急激な変化や、全体主義国家の住民に特有に見られる受動性と父性主義で媒介され、体制崩壊と新たな政治体制の中で社会経済的不安定さが高まり、被災者の基本的欲求の充足機会(ソビエト政府が約束していたもの)を失ったことなどが、受け身的で内向きの態度を一層強め、継続させたと分析されていた。
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