研究課題/領域番号 |
16H05725
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研究機関 | 大正大学 |
研究代表者 |
福島 真司 大正大学, 地域創生学部, 教授 (50249570)
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研究分担者 |
鈴木 達哉 山形大学, エンロールメント・マネジメント部, 講師 (10727514)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | エンロールメント・マネジメント / IR / BIシステム / 個人識別番号 / オープンデータ利用 |
研究実績の概要 |
本研究は、エンロールメント・マネジメント(EM)やインスティテューショナル・リサーチ(IR)の先進事例を持つ大学を対象とするヒアリング調査により、IRが意思決定の上でどのようにEMを支援するのかを体系的に明らかにするものである(目的①)。また、関連して、日本でも近年導入された個人識別番号が、IRをアカウンタビリティーに用いる際の利活用の方法を調査し、今後の日本での仕組み作りに対し基礎的な知見を与えることを目的とする(目的②)。 目的①については、米国大学やコンサルタント等を中心に調査を実施した。米国の大学は常にアカウンタビリティーの強い要望を受けており、IR組織の拡充が求められている。要望にはアドホックなものと認証評価のように定期的なものの両者があるが、両者の増加のため、戦略的な意思決定に寄与する分析に時間を割けなくなりつつある課題がある。その解消策としてICTによるIRの自動化が進められており、BIソフトを活用し、定期レポートの共有を自動化することで対応を図っている。ただし、システム維持のための人的、経済的なコストの増大という新たな課題を生んでいる。米国ではアカウンタビリティーや認証評価等の制度を厳格に実施することで、大学の意思決定の質を高度化している現状が理解された。 目的②については、諸国の個人識別番号の制度と大学のIR等に利活用されている概況の調査を行った。今年度は世界最先端の電子政府を持つエストニアや隣国のラトビア、日本の近隣国であるアジア諸国、既に個人識別番号をIRに利活用している米国を対象に調査した。個人識別番号の仕組みには諸制度があり、電子化により高度なプラットフォームを構築している北欧であるが、大学での利活用はあまりなされていない現状が理解された。一方で、米国では大学が利活用しているケースと州政府が大学評価において利活用しているケースの両者が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的①に関し、インタビュー調査が順調に進んでいる。年度当初計画の調査対象先とは異なる対象を選定している場合もあるが、これは先方の都合と調査者側の効率的な旅程が合致しない場合に起こっている。しかしながら、これまで現地で築いたコネクションにより、調査目的に合致した代替訪問調査先を比較的容易に紹介いただける状況にあり、調査実施上の問題とはなっていない。また、米国大学の場合、現地機関が訪問調査の受け入れに慣れており、アポイントメントが取れれば、こちらの質問内容に対し的確な回答が得られるため、必要な情報が効率的に問題なく得られる状況にある。 目的②に関しては、まずは、諸国の個人識別番号の制度の俯瞰的な知見を得るため、大学関係者だけのインタビューではなく、一般的な企業や市民を調査し、個人識別番号への一般的な認識や利用され方等も調査するため、大学関係者を対象とする調査との2段構えで調査実施している。一般市民を対象とする場合、被調査者の属性によって、個人識別番号の利活用の度合い等、個人識別番号との関係性が異なるため、被調査者の選定にやや困難がある国もある。これについては、できる限りすでにウエブサイト等で公表されている制度の情報を得ることで、効率的な被調査者の選定につなげられつつあり、本研究の大きな障壁にはなっていない。また、一般的な企業、市民を調査することにより、当初想定しなかった大学のIRへの期待や要望等も聞くことができ、アカウンタビリティーへの認識等のIRを含めた大学マネジメントを取り巻く環境に関し、多面的な視点での知見へとつながっている。 今後は、目的①、目的②ともに、特に②については、調査対象とする国を広げることと、一方で、一度調査した国については調査対象者を広げ、さらに知見を深めることが必要となっているが、限られた研究費の効率的な活用のためには、両者のバランスが重要となる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の本研究課題の推進方策については、大きく分けて、以下の3点を予定している。 (1)米国の大学IRに関し、訪問する大学数を増やし、IR組織の大学マネジメント上の位置づけを、大学組織構成上の位置づけ、権限と義務、EM部署との関係、大学リーダーシップ層との関係、意思決定支援の実際の現場での行動等の上で把握する。そのため、EMや大学のリーダーシップのインタビューも可能な限り行う。 (2)米国の大学IRに関し、これまで訪問し強い関係性を築けている大学に対し、実際のローデータの加工、情報セキュリティーに関する規定や文書、ICTシステムの分析ダッシュボード、学長や担当副学長に対する実際のレポート等の実践的な情報を得るための調査を実施する。どこまで情報提供してもらえるかは、当該大学の情報セキュリティーの規則が直接関係しているが、研究成果として公表できる範囲を調整しつつ、踏み込んだ調査を実施する。調査対象大学との信頼関係が重要になるため、慎重な調査姿勢と方法に留意する。 (3)個人識別番号については、その国々のプライバシーに関する文化や考え方、歴史が深く関わっていることがわかってきた。そこで、調査結果が、安易な利活用のノウハウや概況の整理に留まることなく、利活用に関する諸国の考え方の根本的な整理にまで深化させるため、より多くの国の現状を調査する。その際、事前に、既にウエブサイト等で公表されている情報を有効に利用しながら、効率的な被調査先の選定を行う。また、個人識別番号の大学のIRへの活用は、大学や専門家だけが考えるあるべき姿では、今後の日本での取り組みにおいて、大学の諸ステークホルダーからの理解が得られない場合も考えられる。そこで、今年度は、調査対象国を増やすことを目標とし、その上で個人識別番号の大学IRでの活用の先進事例を詳細に調査する最終年度(平成30年度)へとつなげることとする。
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