研究課題/領域番号 |
16H05725
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研究機関 | 大正大学 |
研究代表者 |
福島 真司 大正大学, 地域創生学部, 教授 (50249570)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | EM(エンロールメント・マネジメント) / IR(インスティテューショナル・リサーチ) / 大学のアカウンタビリティー / モビリティー / 個人ID |
研究実績の概要 |
本研究は、EMやIRの先進事例を持つ大学等を調査することによって、IRが意思決定上どのようにEMを支援するのかを明らかにするものである(目的①)。関連して、日本でも導入された個人識別番号を、教育の成果のアカウンタビリティーに利活用する在り方を研究し、今後の日本での仕組み作りに基礎的な知見を与えることを目的としている(目的②)。 目的①については米国等を中心に調査を行った。2018年度からの第3期大学機関別認証評価の重要指標である「内部質保証」「学習成果の可視化」についても調査を実施した。米国大学のIR部署はアカウンタビリティー対応に大きな時間を割いている状況にあり、求められるデータは「卒業率」「専門性を活かした就職」「年収」等であり、費用対効果を示すことを強く求められる。政策上では、「モビリティー」(社会階層の移動)、すなわち、「first-generation」が親の世代の社会階層から上位に移動できたかどうかが、最も重要なテーマである。「学習成果の可視化」については、Association of American Colleges & UniversitiesなどがVALUE Rubrics 等で分野横断的な汎用能力を測定する試みを始めているが、まだ、政策に影響を与えるまでの状況には至っていない。いずれにしても、米国ではデータ分析を重視しており、加えて、ベンチマーク・データやパブリック・データが日本より充実している。 目的②については、諸国の個人IDの制度とそのIRへの利活用の概況を調査した。今年度は、米国の他、個人ID案がプライバシー保護を重視して廃案になった豪州で、個人IDを用いた大学アカウンタビリティーへの所感について調査した。予想通りネガティブな反応が多い一方で、大学教育の成果を卒業後の年収で測ることにはポジティブな意見が聞かれ、極めて興味深かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的①については、インタビュー調査が順調に進んでいる。年度当初計画の調査対象とは異なる対象を調査した場合もあるが、これは、調査を進行する中で、より効果的な調査対象先について、有用な情報が得られたことが理由である。日本の大学のIRの中心的なテーマやデータは、高等教育政策の影響を受けることもあり、IRの最新の状況を調査するためには、フレキシブルな対応が必要であるが、これまで現地で築いたコネクションにより、調査目的により合致した訪問調査情報を得られる状況にあるため、当初計画よりも調査の内容は充実していると言える。 目的②については、まずは、米国のソーシャル・セキュリティ・ナンバーの活用のされ方の詳細を調査し、一方で、個人IDの他の目的への利用に対しネガティブな反応の内容を知るために豪州の教育関係者を調査した。大学関係者だけのインタビューではなく、一般的な企業や市民も調査し、個人IDへの一般的な認識や考え方、利用され方、制度化を進める上で障壁となる感情等も聞いた。個人IDへの考え方は、センシティブな部分も含むため、事前に可能な限り公表されている制度の情報を得ることで、効率的な調査を心掛けた。一般的な企業、市民を調査することは、昨年度同様に有用な知見を得られている。大学に求めるアカウンタビリティーの内容は、すなわち、その国や国民の大学教育への期待の表れとも言えるため、当初期待した以上の知見が得られている。 3年の調査計画の最終年に当たる今後の調査では、特に目的②については、調査対象とする国を開発途上国にも広げること、一方で、一度調査した国については、同じ調査対象者とより深い議論をすることで、調査内容を掘り下げ、さらに知見を深めることを予定している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の本研究課題の推進方策については、大きく分けて、以下の3点を予定している。 (1)米国の大学IRに関し、最終年度は、訪問する大学数を増やす方策から、同じ調査対象者に対し、より内容を掘り下げた調査を実施し、IR組織の外形的な構造や業務内容の調査に留まるのではなく、大学のIRの在り方を、個々の大学のミッションや、組織文化や、マネジメントの考え方という本質的な考え方との関連性を調査したいと考える。大学のアカウンタビリティーに、費用対効果の証明が必要だとすれば、何が大学にとって効果と言えるのかは、個々の大学の本質的な在り方と不可分であると考えられる。 (2)米国の大学IRに関し、まず、大学全体のICT投資に対するIRのデータベースやBIシステムの費用割合がどの程度が適切なのかを調査する。大学の中心的な目的は、教育、研究、社会貢献であるが、間接部門を充実させるほどコスト負担を、中心的な目的外に振り分ける必要がある。IR部署の費用対効果の考え方を、体系的に整理したい。ただし、これは大学の事情によって異なるため、慎重に結論を導く姿勢が必要となる。 (3)個人IDについては、その国々のプライバシーに関する考え方や文化、歴史等が深く関わっている。初年度に訪れた世界最先端の電子国家エストニアの再調査に加え、開発途上国を調査することで、将来的な個人IDの整備の在り方と教育成果との関係をどのように考えるべきかを掘り下げたい。個人IDの大学のIRへの活用は、大学外の社会が大学にどのような期待があり、その成果をどう証明するか、という考え方が整理されないままでは、極めてリスクが高い。安易に他国の模倣を誘導するような調査結果にならないように、体系的な整理をめざしたい。
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