1. 野外調査:2020年3月にアルゼンチンへ渡航し、ウプサラ氷河の前縁湖にて係留系の回収を試みた。音響信号によって係留系の所在は確認できたものの、切り離し信号によって装置が浮上せず、揚収することができなかった。測深ソナー等を使って調査した結果、何等かの理由でフロートによる浮力が失われて、湖底に沈んでいると推定される。この活動を行った直後、新型コロナ・ウィルスの影響を受けてアルゼンチンが国境封鎖を宣言したため、予定を早めて帰国を余儀なくされた。その結果、ヴィエドマ氷河にて計画していた観測を中止した。以上の観測は現地の研究協力者(Pedro Skvarca・アルゼンチン・カラファテ氷河博物館)と共同で実施した。 2. データ解析:グレイ氷河前縁の湖で得られた湖水温度と流速の通年データを、海外の共同研究者によって得られた気象データと合わせて解析した。その結果、夏期に流出する低温の氷河融解水が湖の深層を占めることが明らかになった。ペリートモレノ氷河において開発した津波によるカービング測定手法をグリーンランドの氷河に適用し、UAVによって撮影された画像と合わせて解析した。その結果、カービングの頻度、規模、空間分布の同定に成功した。 3. 人工衛星データ解析:パタゴニアで唯一拡大傾向にあるピオオンセ氷河について、2000年以降の末端位置変動、流動速度、表面標高変化を定量化した。その結果、氷河前縁に堆積した土砂が、氷河変動に主要な役割を果たしていることが示唆された。また、パタゴニア氷原全体にわたって末端位置、流動速度、表面高度を解析し、各氷河における末端消耗量に代表される、広範かつ詳細な氷河変動情報の定量化に成功した。
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