研究課題/領域番号 |
16H05749
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
中川 康之 九州大学, 工学研究院, 教授 (30360762)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | Fluid mud / 河口域 / 土砂輸送 / 東南アジア / 底泥密度 |
研究実績の概要 |
本研究は,大陸河川からの土砂供給が著しい熱帯雨林地域の大河川河口域において,微細土砂を中心とする土砂動態の特徴を明らかとし,現象に即した土砂の移動とそれに伴う地形変化のモデル化を目的とするものである.ここではインドネシア国を対象として,同国内での主要河川河口での流域特性やアクセシビリティを配慮して,いくつかの候補水域の中から調査海域を選定し,連携協力機関との協議を踏まえジャワ島西のジャワ海に面した北岸に流出するCipnagara河口域と近隣のPatimban海岸周辺を調査対象とした. 研究初年度にあたる平成28年度には,連携機関との協力により雨季を対象とした対象水域での水質・濁度および底泥密度分布の空間分布特性の把握を目的とした現地調査を実施し,雨季の高出水の影響による高濁度水の海域への流入が顕著であり,河口部を中心に低塩分の河川水とともに高濁度水塊の拡がりが生じていることを確認し,濁度に関する定量的な空間分布特性の把握に成功した.さらに底層付近に集積する沈降泥の湿潤密度を現場計測し,河口直近では海水よりも密度が大きく,重力流的なふるまいをするFluid mud層が存在することを明らかにした. さらに平成29年度には,乾季における河口域での濁水拡散等の状況を把握するため,8月に現地調査を行い,雨季との比較のためのデータセットの獲得を試みた.その結果,陸域からの淡水供給量の変化に伴う,河口域での濁水濃度およびその分布に関する明らかな差異を定量的にとらえることに成功した.これらの観測データを基に,河口域での濁水挙動の季節依存性について解析を進めつつあり,出水や波浪場等の季節変動に依存した予測モデルの構築を進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初,初年度においては調査適地選定に関する事前調査の実施を予定いていたものの,連携機関との協議および協力体制が順調に進み,調査目的および調査実施に適した調査地点が確保され,現地調査を実現することができた.調査実施内容においても,予備調査的な内容からの実施を想定していたが,使用機器の搬送や現地での調査船傭船等の準備においても,現地連携機関との事前協議を通じて緊密な意思疎通が図られることにより,所望の調査実施体制を構築することが可能となった.また現地での雨季における調査時期を設定し,予定通りに観測が実施でき,高濁度出水の状況をとらえることに成功した. 一方,本研究の主な着眼点の一つである,東南アジア地区特有の気候特性に依存した,河口域での土砂動態の把握として,平成29年には乾季における同一地点での現地観測を実施し,陸域からの淡水流入条件が大きく異なる条件下での観測データの取得に成功した.その結果,河口直近での濁水濃度分布の変化や,土砂の流動機構に深く関与する底泥直近の底泥密度の季節間での変化が明らかとなり,雨季における高濃度な底泥集積による周辺域での土砂動態機構のモデル化が重要となることが類推される. さらに,シミュレーションに必要な地形データや底質データ等の基礎情報の収集をインドネシア国の連携機関と進め,沿岸域での底質移動計算に用いている数値モデルの改良による,河口周辺域での土砂輸送特性を反映したモデルへの改良も進めつつある.
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今後の研究の推進方策 |
これまで雨季および乾季の二時期に実施した,水質・濁度等の現地調査結果の解析を進め,陸域からの淡水流入量や波浪場の季節変動に依存した,濁水の空間分布や底泥密度の特徴について整理を行い,土砂流出と河口域での堆積環境の季節的な変化についてまとめる.また,観測時期の気象イベント等の特徴を把握するため,インドネシア国での連携機関を通じて現地政府機関等の公的機関による気象データ等の収集をすすめるほか,観測実施時期の気象概況を踏まえて観測結果の評価を行う.また,連携機関の協力による計測されている深浅測量および底質分析データを活用し,対象海域の海底地形ならびに底質分布の季節変化についても同時に把握し,河川による土砂供給の変化とそれに応じた地形・底質への影響について検討を加える予定である. さらに,現地事象の解析と現象解明をふまえ,微細泥および砂粒分も含めた河口域での土砂移動の特徴を考慮した河口域での土砂動態モデルの構築を試み,東南アジア域の海域特性を考慮したシミュレーション・モデル開発に向けて検討を進める.
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