令和元年度はエジプト、サッカラ遺跡の北端と南端の2ヵ所の遺跡で現地調査を実施した。北端の北サッカラ遺跡では昨年度から本格的な発掘が始まり、切り立った崖の上部から石積み遺構が、崖の中腹から日干しレンガによるヴォールト遺構が発見された。今年度は発掘区を広げ、石積みの全体規模を把握すると共に、ヴォールト遺構の時期や機能の解明が目指された。その結果、ヴォールト遺構は崖の内部に穿たれた集団墓地のアプローチを形成していたことが判明した。集団墓地の内部には夥しい数の木棺や人骨が納められ、出土した遺物から紀元後2~3世紀頃の活動と推定された。部屋の最奥には竪坑が穿たれ、地下室が更に続くことが確認され、創建はこの時代よりも遡る可能性も低くない。今年度は集団墓地の発見と内部の確認に留まり、本格的な調査は次回以降へ持ち越すことになった。本格的な集団墓地(カタコンベ)の発見はサッカラ遺跡で初めてあり、ローマ支配期のエジプトを示す重要な遺構といえる。 同時期にはアブ・シール南丘陵遺跡の北側に集団動物墓地(セラペウム)が整備、拡張されており、これら3遺跡をつなぐ陸の道が強く想定される。アブ・シール湖を利用した水の道との関係性や機能、役割の違い等が、発掘調査を通じて明らかになることが期待される。 サッカラ南端に位置するダハシュール北遺跡では第27次調査が実施され、サッカラ遺跡の全体像や北端遺跡との比較考察のため従事した。遺跡の北東地区で調査を進めたところ、中王国時代末期と新王国時代の2つの時代に作られた竪坑墓が多数発見された。発掘区域の北東には前者の時期に造営された王のピラミッド複合体が位置しており、両者の関係が注目される。ダハシュール北遺跡を取り囲む壁体や出入り口の痕は未だ見つかっていないが、両遺跡間にアクセスルートが存在したこと想定され、埋葬都市の構成など今後の重要な検討課題を提出することができた。
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