研究課題/領域番号 |
16H05765
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
長沼 毅 広島大学, 生物圏科学研究科, 教授 (70263738)
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研究分担者 |
伊村 智 国立極地研究所, 研究教育系, 教授 (90221788)
辻本 惠 国立極地研究所, 研究教育系, 特任研究員 (90634650)
中井 亮佑 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究員 (90637802)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 地衣類 / イワタケ類 / 共生関係 / 微生物相 / 可塑性 / 分子系統 / 生物地理 / 系統地理 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、世界の陸域で最も広範囲に分布するイワタケ類地衣類における菌類と藻類の共生関係および共在微生物相における可塑性と多様性を、分子系統および生物地理的な観点から解析することである。この目的を達成するため、生物地理的なモデル地域として北極~ヨーロッパ~アフリカ~南極を通る「地球儀の縦の線」もしくは「Pole-to-Poleの線」を設定し、その線に沿ってイワタケ類の地衣類を採集してきた。また、比較のため、その線から逸れた地点からも採集した。 初年度(2016年度)は予定していたエジプトでの採集を試みたが、国内政情不安などの理由でターゲット地点には行けず、不首尾に終わった。一方、フィンランドの北極圏・亜北極圏および赤道域のギアナ高地(標高2500 m)からイワタケ類地衣類を得ることができた。 第2年度(2017年度)はカナダ亜北極域のサルイットにおいてイワタケ類地衣類を採集することができた。 第3年度(2018年度)は南アフリカで採集したとともに、国立極地研究所のハーバリウムから北極圏スピッツベルゲン島産のイワタケ類地衣類の試料を入手した。 採集・入手した地衣類サンプルについて菌類・藻類の構成種および共在微生物相について、18Sおよび16S rRNA遺伝子をターゲットとした標準的なクローン解析を行ったほか、次世代シークエンシングによる16S rRNA遺伝子の網羅的マイクロバイオミクス解析を行った。その結果、南極域と非南極域の間に生物地理的な境界線、いわば地衣類微生物の「ウォレス線」が引けることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた北極~ヨーロッパ~アフリカ~南極を通る「Pole-to-Pole」の線に沿った地衣類(イワタケ類)サンプリングがおおむね達成できている。具体的には、北極スピッツベルゲン島、スカンジナビア半島、アフリカ赤道直下のルウェンゾリ山(本研究以前のサンプル)、南アフリカ、南極(本研究以前のサンプル)からサンプル採集あるいは入手できている。この線における空白域は本年度(2019年度)に実施するオーストリア・アルプス山脈でのサンプリングで埋めることができる。 上記のサンプリング地点以外に、カナダ亜北極や亜南極の島(本研究以外の経費)、南米ギアナ高地(本研究以外の経費)からも比較対照用のサンプルが得られている。 これらのサンプルを用いた解析により「南極と非南極の間に生物地理的なギャップ」があるという仮説を得ることができた。本年度はさらに深いレベルかつ大量データの解析により、その仮説の検証を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
第4年度にして最終年度となる本年度(2019年度)は、おおむね北極日本基地(スピッツベルゲン島)~ヨーロッパ~アフリカ~南極日本基地(昭和基地)を通る「Pole-to-Pole 北極から南極まで」の経線に沿ってこれまで空白域であったヨーロッパアルプスにおいて、イワタケ類地衣類の採集を計画する。 当初計画では北アフリカ地域での採集を検討していたが、当該地域の国々の政情不安により困難になったため、北アフリカからそれほど遠くなく、かつ、中緯度帯の高山域の風衝地という観点から、ヨーロッパアルプスでの採集を新たに計画したものである。 本年度に採集する地衣類サンプルについては、これまでと同様に菌類と藻類の18S、および、藻類クロロプラストと共在微生物の16S rRNA遺伝子をターゲットとした標準的なクローン解析を行う。また、この解析結果も含めて、これまでに得られた膨大な数の遺伝子配列について、菌類-藻類のパートナーシップにおける可塑性を系統地理学的な観点も含めた解析を行う。 さらに、世界各地から得られたイワタケ類地衣類に常に存在するような共在微生物の有無を調査し、もし存在した場合、それが菌類・藻類に次ぐ“第3の共生者”としての役割を演じている可能性を検討する。
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