今年度は、傾斜樹幹を有するグネツムグネモン成木個体について、主としてセルロース特性が引張の成長応力の大きさに及ぼす影響を解析した。 (1)木部特性:木粉を用いた定量解析の結果、セルロース量(比率)と引張の繊維方向成長応力との間に相関関係は認められなかった。さらに、平均ミクロフィブリル傾角(平均MFA)と成長応力との関係を考察した。傾斜の上側における平均MFAは、鉛直樹幹のそれと同じであり、(他樹種の例と比較して)共に小さいと言えるが、引張の成長応力は傾斜上側で明らかに大きくなっていた。特筆すべきは、傾斜の上側でセルロース結晶化度が有意に増加しており、その値は引張の成長応力に対し高い相関関係を示した。なお、傾斜下側では平均MFAは明らかに増加しており、成長応力はほぼゼロとなっていた。またセルロース結晶化度は鉛直樹幹と同じであった。 (2)師部特性:二次師部(樹皮)では、傾斜上側で、セルロース純度の高いゼラチン繊維の発達が認められた。それにより、傾斜上側では平均MFAはゼロに近く、またセルロース結晶化度は特異的に大きくなっており、その値は樹皮における引張の成長応力の大きさに相関していた(注:成長応力の測定は昨年度に実施)。
グネツムグネモン傾斜樹幹の上側の木部に大きな引張応力が発生するメカニズムは、もともと木部繊維細胞壁のMFAが小さいことに加え、細胞壁成熟過程(木化)でセルロースの結晶化が進行し、これがセルロースミクロフィブリル(CMF)に引張応力を引き起こすと考えることで説明できる。この説明は、傾斜樹幹の上側の師部に発生している大きな引張応力にも適用される。以上が、グネツムグネモンにおける負重力屈性の発現機構であるが、その様子は、イチョウや針葉樹類などの裸子植物の挙動とは大きく異なっている。なおセルロースの結晶化度が不均一となる理由は謎であり、さらなる研究の実施を模索している。
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