研究課題
サンゴ礁生態系は,CO2 濃度の増加によってもたらされる温暖化および海洋酸性化の影響を最も顕著に受ける可能性がある海域として危惧されている。しかし、今回パラオ国沿岸に位置するニッコー湾にて、海水中のCO2濃度 が周辺海域よりも高く、水温も高いにも関わらず、極めて被度および多様度が高いサンゴ群集が生息する海域を発見した。本課題では本湾の高CO2 高水温環境をもたらす要因と、本湾で高被度および高多様度のサンゴ群集が生息を可能とする機構の解明を目的とする。1,2年度目の研究からは、本湾の高CO2環境は本湾内の海水の滞留時間が長く、湾内に生息する生物の呼吸と石灰化に伴う海水中のCO2の放出とアルカリ度の低下が要因であること、さらに本湾のサンゴがこのような環境に適応的な応答などを示している可能性が明らかになってきた。本年度はさらに、本湾内でのより詳細な空間的な水質環境および生物群集組成を評価し、これら水質環境と生物の群集組成との関係性を評価した。また湾内外に生息するハナヤサイサンゴを用いて,次世代への母性効果を評価するため幼生によるCO2耐性実験を行った。さらに本湾内でのサンゴの加入量を評価するため昨年度に引き続き、異なる季節に着底基盤を設置/回収を行い現在解析中である。これら調査の結果、本湾内の水質環境は狭い空間スケールで極めて多様な環境を示し、CO2環境の他水温や濁度,栄養塩やクロロフィル濃度も湾内で異なることが明らかとなった。さらに各環境に応じてサンゴの被度は大きく異ならない一方で群集の組成がCO2濃度に依存して大きく異なることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
これまで予定していた研究内容はほぼ全て実施できている。湾内の生物群集の調査のため湾内の異なる水質環境を示す5カ所においてのトランセクト調査を行った。また湾内の50カ所で採水し、極めて詳細な環境データも得ることに成功した。さらにサンゴを用いた実験は本年度は新たに幼生保育型として知られるハナヤサイサンゴを用いて、サンゴの幼生への影響評価実験を実施し、成功した。また当初予定になかったサンゴの加入量調査については去年実施した結果、問題無く行うことが可能であることが分かった一方で、パラオでは沖縄などと異なり年に2回産卵している可能性が高いことから、去年に引き続き異なる季節に着底タイルの設置回収を実施した。さらにサンゴの適応的応答を評価するため、本年度はさらにサンゴが共生する褐虫藻類のタイプに注目して、調査を行った。一方で生物代謝量測定実験に使用していた機器の故障が生じたことにより調査の一部の続行が難しくなかったころから、一部予算を繰り越して、来年度に再度現地での調査を行うこととした。
今後の予定は、今年度のベントス群集に続き、プランクトン群集について評価すること、さらに今年度予定していた現場での生物代謝量測定実験を行うこと,さらにこれまで得られた全てのサンプルやデータの解析を終了させ総合的な解析を実施することを予定している。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 5件、 査読あり 5件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件) 備考 (1件)
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