生産基盤が弱く環境ストレスのリスクが高いアジアの脆弱な稲生態系において、地域の稲生態系内部の水・土壌・塩分条件や生産リスクの分布 ・勾配と、それに伴う栽培・品種・生産の多様性(不均一性)をベトナム、インド、カンボジアの事例実態調査により明らかにしようとした。 ベトナムでは、紅河デルタの対照的な三角江で、塩水遡上の差異と、稲作への影響を比較した。分流の三角江では、塩水遡上の程度が大きく、稲作と水産の混在する状態であり、ゾーニングの重要性と課題とが明らかになった。水路の塩分濃度が0.5‰を超えると、水産に転換した方が収益が高くなることが示唆された。一方、本流の三角江では、堤防内側と外側で水田地帯と水産地帯とのゾーニングが図られており、堤防近傍の水田を除けば、塩水遡上の負の影響は少なかった。耐塩性品種は普及はまだだが開発は始められている。 南インドのため池灌漑水田地帯では、30年余りの降水量の変動を解析し、漸減の傾向と、2012年以降の干ばつの頻発と、2015年以降の井戸水灌漑の増加傾向とを確認した。小規模なノンシステムタンクについて、同地域内の大小2つを比較したが、降水量の少ない干ばつ年の影響は小さいため池の方が大きかった。また、ため池から遠い末端水田では、収量が低い傾向が見られた。早生品種の利用と、栽植方法の改良が試行されている。 カンボジアでは、異なる稲生態系(灌漑水田、天水田、深水水田)と、イネの作期(雨季作、早期雨季作、乾季作)による収量性の差異を調査するとともに、種子生産と入手方法についても、地域間や作期間による差異を明らかにした。 2008年以降のコメの高値や国際的取引の増加は、稲作を強化していくインセンティブにもなっている。一方で、紅河デルタの塩水遡上に対しては、稲作から水産への転換、南インドの干ばつに対しては、非農業を含めた仕方で生計を維持してゆく対応が見られた。
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