研究課題/領域番号 |
16H05785
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
久城 真代 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 食品研究部門 食品安全研究領域, ユニット長 (40353932)
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研究分担者 |
矢部 希見子 福井工業大学, 環境情報学部, 教授 (70158054)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 菌類 / カビ毒 |
研究実績の概要 |
立毛のトウモロコシが有る時期にメキシコの共同研究機関を訪問し、エルバタン試験圃場等から土壌を採取し、現地においてもDV-AM(ジクロルボス-アンモニア)法を適用し、GYまたはGYD培地を用いて、AF産生株及び非産生株のスクリーニングを行った。アフラトキシン産生株として2株が検出され、非産生株と推定される株が1株得られた。 また国内の土壌として、沖縄サトウキビ畑3カ所の土壌27サンプルを採取し、同様の培地を用いて、DV-AM法でAF産生と思われる陽性株及び非産生と思われる陰性株のスクリーニングを行った。全体で17株のAF産生株が得られ、AM処理での陽性とAF産生能を指標にしつつ、純化した。形態観察及び遺伝子配列解析からAspergillus pseudonomius及びAspergillus transmontanensisなどが検出された。 バイオコントロール材の候補となりうるアフラトキシン非生産株のスクリーニングも併行して行い、寒天培地上、2株のAF生産株と形態が類似しているカビが採取できた。しかし、現時点でAF生産菌のグループではないことが確認され、目的とする株ではないと推定された。以上、28年度には同種のAF非産生株は検出されなかったことから、バイオコントロール材の候補株の単離は29年度において、さらに採取範囲を広げて継続することとした。 また、28年度は多くの野外由来の陽性株が得られたことから、野外株を用いてDV-AM法に適した培地条件の検討を行った。その結果、GY培地では色調の変化が見られないが、高濃度の糖を含む培地では、色調の変化がみられる株が得られ、この結果から、ほとんど全てのアフラトキシン生産株を検出するには、高濃度糖含有培地が適していることが示唆された。29年度においては、この改良培地を用いてスクリーニングを行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
28年度において国内外の圃場管理者等の協力を得ることができ、まずはメジャーなAF産生菌であるAspergillus flavusを直接単離することに成功し、論文化した(Mycoscience 2017)。現時点で、つくば、メキシコ、沖縄の圃場土壌(いずれもイネ科植物の栽培土壌)から、AF産生菌を検出できている。また、メジャーなAF産生菌以外のA. pseudonomiusやA. transmontanensisも検出されたことから、DV-AM法がマイナーなAF産生菌にも適用可能であることが証明された。これらマイナーなAF産生菌については、これまで汎用されてきたスクリーニング手法(AFPA培地法:Aspergillus flavus/parasiticus Agar)では報告が少ないものである。しかしながら土壌によっては、アンモニアで赤くなる他の微生物の存在比率が高く、そのままのDV-AM法のスクリーニング条件では、選抜が困難な場合も有ることが示された。 今回、野外由来の陽性株が多数得られたことから、野外株を用いてDV-AM法に適した培地条件の検討を行うことができた。その結果、一般的なカビ培養用のポテトデキストロース培地よりも、糖度の高いGY培地やYES培地のほうがクリアーな色調変化が見られた。GY培地の組成のみならず、菌種の違いによっても、呈色に差が有ることが明らかとなった。これまでのところ、呈色が明瞭であった菌株のAF産生性は、機器分析結果と矛盾が無い。これらin vitroでの呈色解析についても、学会での発表ならびに論文化を検討している。 以上、初年度において、計画通り国内外の圃場現場で実際に使える手法であることが明らかとなり、DV-AM法の利点ならびに今後の改善点を見出すことができたため、上の区分とした。
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今後の研究の推進方策 |
28年度において国内外の圃場から、メジャーなAF産生菌であるAspergillus flavus以外に、マイナーなAF産生菌を得ることができたが、Aspergillus flavusグループの非産生菌を得ることはできなかった。そこで本年度は、地域ならびに栽培作物種を広げて引き続きスクリーニングを行い、比較的産生菌の生息密度が高いと思われる圃場から、同属の産生菌と非産生菌の同時取得を目指す。 まずは28年度に得られた菌株を用いて、寒天培地の組成の改良を継続し、圃場現場で利用可能な培地を検討する。また今回、アンモニアで赤くなる他の微生物の存在比率が高い土壌では、オリジナルのDV-AM法のスクリーニング条件(海外の途上国での圃場現場での適用を考慮し、低コストな抗生剤無しの培地を使用)では、選抜が困難であったことから、抗生剤等の利用も検討する。同時に、土壌中の共存微生物がAF産生菌の生育を阻害するケースが示唆されたことから、土壌試料のスプレッド濃度についても検討する。 上で最適化した条件を用いて、地域ならびに品目の異なる圃場から、産生菌と非産生菌を効率的にスクリーニングする。初年度、現地での調査結果から、採取後の保存条件によるAF産生菌の生存度合いの差が示唆されたことから、あまり研究例が無い採取後の土壌保存条件についても検討する予定である。 同属同種の非産生菌が得られれば、計画に沿って、その中からバイオコントロール剤(拮抗剤)として有望な候補菌株の単離を行い、対峙培養系などを用いて、候補菌株の生育特性とAF産生阻害活性を評価する。DV-AM法は、長年のAF生合成研究をもとに構築された、Aspergillus属のAF産生菌・非産生菌の同時選抜が可能な手法であるが、同属同種の非産生菌の探索とともに、AF産生菌の生育を阻害せずにカビ毒産生を抑制する同属近縁種の共存微生物の探索も視野に入れる。
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