研究課題/領域番号 |
16H05789
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
伊藤 哲 宮崎大学, 農学部, 教授 (00231150)
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研究分担者 |
光田 靖 宮崎大学, 農学部, 教授 (30414494)
平田 令子 宮崎大学, 農学部, 講師 (50755890)
加治佐 剛 鹿児島大学, 農水産獣医学域農学系, 准教授 (60538247)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 熱帯林 / 生物多様性 / 森林劣化 / 生態系サービス / 土地被覆 |
研究実績の概要 |
(1)景観要素の多様性評価: ①インドネシアでは、対象地域の代表的な土地被覆タイプ(畑地、Pine林、Teak林、Eucalypt林)のパッチ境界周辺にベルトトランセクトを設定し、植物相の調査を行った。これらのデータを用いて植物種多様性のパターンを分析した結果、開地性・林縁性・林内性植物の出現傾向が、光環境および撹乱頻度の異なるパッチに対応することを明らかにし、前年度試行したパッチの複雑さに基づくHotspot 抽出法の有効性を現地調査で検証できた。 ②カンボジアではLandsat画像を用いたNDVIとWetness指数により、2004年から2017年までの伐採による景観構造変化を分析し、現地調査により状況を確認した。その結果、近年は大規模な単純群落造成により伐採面積が減少し、景観構造が単純化してきていることを明らかにした。 (2)調整サービス評価: ①インドネシアに設置した試験地の植物種・昆虫種のデータセットを用いて、天敵・送粉サービスを最適化する植物種と昆虫種の組み合わせの探索を行い、その指標種として天敵・送粉昆虫を増加させ害虫を減少させる複数の湿地型植物種を試行的に抽出した。②カンボジアでは、養蜂に係る営巣適地の林分・景観構造についてインタビュー調査および現地調査を実施し、樹高2mほどの再生過程にある灌木林でのみが適性を有することを明らかにした。また、UAVを用いて対象景観の低高度空中写真を撮影し、林冠構造の不均一性および養蜂の営巣に適した灌木林の空間分布の現状把握を行った。 (3)多様性の回復可能性の評価: インドネシアでは調査対象パッチの光環境測定を行い、多様性回復の可能性を指標する森林性植物種を複数抽出した。カンボジアでは、過密若齢二次林で列状伐採試験を開始するとともに、既存の固定試験地のデータの整理分析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)景観要素の多様性評価: インドネシアでは、前年度に開発したホットスポットの抽出法の有効性を現地調査で検証できた。さらに、パッチモザイク景観の現地調査では、相対的に明るい側のパッチ(農地)の林縁部分が森林性植物のハビタットとして機能することを見出し、パッチモザイクの林縁が有する多様性保全機能についてもエビデンスを得ることができた。また、カンボジアにおいても、Siem Reap市周辺のコミュニティフォレストを中心とする森林景観において、従来行われてきた焼畑による定期的な小規模攪乱がゴム林およびカシューナッツ林の造成によって減少し、発達段階の異なるパッチモザイクが消失しつつあることを明らかにできた。 (2)調整サービス評価: インドネシア・Malang市周辺のパッチモザイクの現地調査で天敵・送粉サービスの指標植物種を抽出し、景観構造の多様性と天敵・送粉サービスの関係を分析するための基礎知見が得られた。カンボジアでは、調査地選定が困難であった土壌侵食の代替課題として、伝統的養蜂に関する伝統的森林知識(TFK)のデータをインタビューで集積するとともに、衛星画像を用いた景観構造変化の分析により、伝統的養蜂に係る森林の生態系サービスと景観構造を分析する準備が整った。さらに、国内の比較対象地でも同様の研究を進め、景観構造が送粉昆虫に及ぼす影響の年次変動を把握できている。 (3)多様性の回復可能性の評価: インドネシアでは林内・林縁・開地のそれぞれに対応した植物種群の抽出と生育光環境との対応を分析することで、森林性の生物多様性回復を指標する種群を試行的に抽出できた。また、実際の多様性回復手法として二次林における列状間伐と樹下植栽試験に着手した。 以上の成果により、本課題は概ね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
(1)景観要素の多様性評価: インドネシアでは、前年度と同様Hotspot抽出法の改善を継続するとともに、対象を混交度合いの異なるアグロフォレストリー(混合栽培)システムに拡張し、現地スケールで適用できる景観要素の多様性評価法の開発に着手する。 (2)調整サービス評価: インドネシアの天敵・送粉サービスについては、ブラウィジャヤ大学の調査協力を得て、パッチモザイク及び混合栽培の作物収量を比較検証する。また、混合栽培と単独栽培の比較試験地を設け、リター供給と表土保全および林床植生の多様性との関係を分析する。カンボジアでは、養蜂に係る収量と景観構造についてインタビュー調査および現地調査を実施し、UAVを用いた林冠構造の不均一性の把握結果と照合して、適正なパッチモザイクの配置を検討する。また、衛星画像分析により、伝統的養蜂の持続性を担保するための伐採レジームを検討する。 (3)多様性の回復可能性の評価: インドネシアでは、現地調査を継続して指標種の出現傾向を景観構造(パッチ構造の複雑さや林縁効果)から分析し、集積した指標種の再検討を行うとともに、多様性回復のポテンシャルを景観構造から予測するモデルを開発する。カンボジアでは、過去の固定試験地の動態モニタリングデータを用いて指標種の消失・再侵入過程を分析し、指標種を抽出する。 (4)シナリオ分析と最適化戦略構築: 異なる伐採・モノカルチャー造成圧を想定した景観構造変化、生物多様性、調整サービスおよび多様性回復ポテンシャルのシナリオ分析を試行し、問題点を抽出する。
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