研究課題
本研究では,国境を越えて東シナ海を回遊するブリ類の生息域を全て網羅するように調査水域を設定する。この水域を日本と台湾とで3年に亘って共同調査し,ブリ類の仔稚魚を採集し,日齢査定と食性解析に加えて生息水域の環境情報解析を行う。さらに,遺伝子解析による系群判別を実施する。以上の知見をもとに,東シナ海のブリ類,特に知見の皆無であるカンパチの初期生活史の回遊パタンを詳らかにし,さらに,資源量推定の算定基準に資することを目的としている。本年度は東シナ海において長崎大学水産学部練習船長崎丸・鶴洋丸,および台湾水産試験所の調査船によって,ブリ類仔稚魚の採集を実施した。その結果,流れ藻に附随するブリ類稚魚は摂餌を主とした要因として蝟集しておらず,その他の生態学的意義,すなわち,shelter from predatorまたはmeeting point仮説が支持されることが明らかになった。また,台湾西海岸の澎湖島周辺でカンパチの仔稚魚の採集に成功した。これらの耳石日周輪の解析と,周辺水域の海洋構造の精査を行った。カンパチ仔稚魚は水温フロントで採集され,その全長は7.4-42.5 mm,18-56日齢であった。以上の結果からカンパチの孵化日は4月から6月で,カンパチの仔稚魚はフロントに集積されると推測され,台湾周辺水域にカンパチの産卵場があると推定された。さらに,採集された100個体を超えるカンパチ仔稚魚のサンプルのほぼ全個体から遺伝子抽出に成功し,現在mtDNA D-loop領域のシーケンスを行っている。
2: おおむね順調に進展している
日台共同調査を初めて実施したが,ここで,目的とするカンパチ仔稚魚を100個体以上採集することに成功し,これらの初期生態解明に踏み込むことが出来た点が大きな成果である。その一方で,稚魚に対して仔魚の採集個体数が少なかったため,詳細な産卵ルートを推定するには精度が低い。以上の点を持って概ね順調に進展していると評価した。
日台共同調査を次年度も実施し,仔魚採集に注力する。また,水産機構・西海区水産研究所との共同研究も開始することが出来たため,ほぼ同時期に台湾~長崎までの仔魚採集を行い,より精度の高い標本採集が期待される。
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Ichthyological Research
巻: 64 ページ: 145-150
10.1007/s10228-016-0543-6
Aquaculture Science
巻: 64 ページ: 157-162