研究課題
本研究では,国境を越えて東シナ海を回遊するブリ類の生息域を全て網羅するように調査水域を設定する。この水域を日本と台湾とで3年に亘って共同調査し,ブリ類の仔稚魚を採集し,日齢査定と食性解析に加えて生息水域の環境情報解析を行う。さらに,遺伝子解析による系群判別を実施する。以上の知見をもとに,東シナ海のブリ類,特に知見の皆無であるカンパチの初期生活史の回遊パタンを詳らかにするとともに,資源量推定の算定基準に資することを目的としている。本年度は東シナ海~台湾を網羅する広範な水域で,4月に長崎大学水産学部練習船長崎丸,西海区水産研究所陽光丸および台湾行政院農業委員会水産試験所水試壱號の3船による同時サーベイを実施することができた。ここで,ブリ属仔稚魚を100個体以上採集したが,そのうちブリは北部水域に,カンパチは南部水域に出現し,いずれも陸棚縁辺部を北上する傾向が見て取れた。特にカンパチについて,東シナ海中南部では陸棚縁辺部を中心に46尾の仔稚魚が採集された。全長と日齢のレンジはそれぞれ,0.4-7.2 cmと10-82日齢であった。また,親魚の産卵期は2017年の1-4月の期間と推定された。一方,台湾南西-北部海域ではカンパチ仔稚魚は採集されなかったが,台湾基隆の沿岸で2017年5月に稚魚(全長3.7 cm, 63日齢)が1尾採集され,産卵期は3月と推測された。2016年採集のカンパチ仔稚魚21個体のミトコンドリアDNA解析の結果,ハプロタイプ数は20とハプロタイプ多様度は高く(h=0.99),日齢の近い個体でも系統樹上に分散して分布した。以上のことから,東シナ海に分布するカンパチは単系統であり,その産卵場が台湾以南の水域にあることが強く示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
東シナ海全般を網羅する形で仔稚魚の採集航海を日台共同で同時期に実施できたことが,本研究の趣旨からも最も大きな成果であると考えている。さらに,これらの標本解析を進めたところ,ブリの産卵場が東シナ海の我が国の領海内にあることが再確認されるとともに,カンパチの産卵場が台湾側にあると予測が付けられたことは非常に大きな発見である。
前年度に引き続き,1)日台共同で東シナ海縦断のフィールド調査,および2)東シナ海に出現するブリ類の系群解析を継続して行う。特に日台にまたがって分布するカンパチに焦点を当て,遺伝子解析にミトコンドリアDNA解析に加えて,DNAマイクロサテライトおよびSNP解析を行ってデータの精度を高める。3年間の調査・研究で得られたパラメータを統合して解析し,(1)東シナ海のブリ類の産卵期推定と系群のマッピングから産卵状況と産卵場を推定し,(2) 東シナ海におけるブリ類の生活史初期の回遊経路を特定を目指すとともに,(3)環境要因,仔稚魚の出現状況およびプランクトン豊度から,ブリ類の生活史初期の環境応答を推定を行い,研究の総括を実施する。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 5件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Marine Ecology Progress Series
巻: 573 ページ: 101~115
https://doi.org/10.3354/meps12154
http://www.nagasaki-u.ac.jp/ja/about/info/science/science135.html