研究課題
ワクモ(Dermanyssus gallinae)は、鶏の貧血・削痩、産卵率低下、病原体の媒介など養鶏業に対して、世界各地で大きな被害をもたらしている。さらに近年、駆虫剤に対する耐性ワクモの出現や駆虫剤の残存による環境汚染などの問題があり、新規防除法の開発が必要となっている。そこで本研究では、ワクモの新規防除法を開発するために、世界各地でワクモ材料を採取し、申請者らの発現遺伝子(EST)解析の成果をもとに選抜したワクモ遺伝子群の多型解析を実施して、保存性が高い抗ワクモワクチン候補分子の探索・同定を行う。そして、同定した分子群について、ワクモのin vitro吸血システムを用いてその有効性を検証することを目的として行った。本年度は、ワクチン抗原候補因子として、多くのダニ種で保存性が高い分子として、鉄輸送タンパク質であるフェリチン2(FER2)に注目し検討を行った。ワクモcDNAからマダニのフェリチン2遺伝子の配列を参考にRACE法によりDgFER2遺伝子の同定を行った。DgFER2遺伝子の発現解析を行ったところ、吸血を行う各発育ステージにおいて発現が確認され、組織別解析では中腸において発現が確認された。次に、組換えDgFER2タンパク質を用いて機能解析を行ったところ、鉄イオンとの結合能が確認された。組換えDgFER2免疫鶏の血漿を含む血液を人工吸血系によりワクモに吸血させ、2週間生死判定を行いワクチン効果の検討を行ったところ、対照群に比べて死亡率の上昇傾向がみられた。以上の結果よりDgFER2はワクモにおいて有用なワクチン抗原となることが示唆された。さらにこれまでに我々が同定したワクモ由来因子との併用による効果を予備試験にて解析した結果、相加的な効果が認められた。今後さらに条件検討やワクモ吸血動物実験モデル等での解析を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
有効な抗ワクモワクチンの候補抗原の探索を目的として、世界各地に分布するワクモを解析して、遺伝子多型が少ない因子を同定することが目的であり、これまで我々が同定した因子に加えて、今年度新たにフェリチン2を同定することができた。しかしながら、英国等ごく一部地域で分離されたワクモの遺伝子情報との比較のみであり、今後より多くの地域での試料を用いた解析が必要と思われる。
現在もさらに新たな抗ワクモワクチン候補因子を同定を実施しており、有用な分子(特に中腸等に発現する非暴露型抗原等)の同定さらにin vitro feeding assayによる吸血防御効果試験によりより多くの候補因子を探索していく。さらに英国以外、ヨーロッパの他の地域やアジア地域での試料の入手を行い、より詳細な遺伝子多型の有無の調査を行っていく。さらに国内において、駆虫剤耐性ワクモ試料の収集等を開始して、薬剤耐性機構の解析を進めていく予定である。
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Ticks and Tick-borne Diseases
巻: 8 ページ: 432-441
10.1016/j.ttbdis.2017.01.007