研究課題
ワクモ(Dermanyssus gallinae)は、鶏の貧血・削痩、産卵率低下、病原体の媒介など養鶏業に対して、世界各地で大きな被害をもたらしている。さらに近年、駆虫剤に対する耐性ワクモの出現や駆虫剤の残存による環境汚染などの問題があり、新規防除法の開発が必要となっている。そこで本研究では、ワクモの新規防除法を開発するために、世界各地でワクモ材料を採取し、申請者らの発現遺伝子 (EST)解析の成果をもとに選抜したワクモ遺伝子群の多型解析を実施して、保存性が高い抗ワクモワクチン候補分子の探索・同定を行う。そして、同定した分子群について、ワクモのin vitro吸血システムを用いてその有効性を検証することを目的として行った。 前年度は、ワクチン抗原候補因子として、多くのダニ種で保存性が高い分子として、鉄輸送タンパク質であるフェリチン2(DgFER2)に注目し検討を行った。今年度は、国際特許取得済みのワクチン候補抗原であるカテプシンL2(DgCatL2)との併用効果について、鶏に対するワクモ実験攻撃系を用いて検討した。その結果、併用群(DgFER2+DgCatL2)では、単独群に比べてより吸血阻止効果が観察され、生存するワクモ個体の減少や産卵率の低下が観られた。以上の結果よりこれらの分子がワクモにおいて有用なワクチン抗原となることが示唆された。今回同定したワクチン候補分子の遺伝子多型の有無を検討するため、アジアにおけるワクモの性状解析を行った。ミャンマーの養鶏場で外部寄生虫を採取し、その形態やactin遺伝子等の系統樹解析によりワクモを同定しようとしたが、いずれも、トリサシダニの近縁種と同定された。今後、さらにミャンマーにおける材料採取を実施すると同時に、欧州に分布するワクモの解析を行うため、次年度ドイツにおける材料採取も実施する。
2: おおむね順調に進展している
現在もさらに新たな抗ワクモワクチン候補因子を同定を実施しており、有用な分子(特に中腸等に発現する非暴露型抗原等)の同定を行っている。今後入手する材料について、多型解析を行う候補分子レパートリーの拡充が進行している。ミャンマーにおける調査は、未だ数カ所の農場のみの実施であり、今年度もより多くの農場での調査を実施して、ワクモを採取できると考える。さらにヨーロッパについては、ドイツの研究者と材料採取についての打ち合わせが進行中であり、次年度に解析を実施できる。
ミャンマーにおけるワクモ材料採取を継続して実施する。また英国以外の欧州由来ワクモの材料を採取するためにドイツにおける材料採取を実施する。得られた材料については、ワクチン候補分子として選抜したフェリチン2(DgFER2)およびカテプシンL2(DgCatL2)の遺伝子多型等を解析する予定である。また同時に実施して他の非暴露型抗原の探索により同定したいくつかの因子についても同様の多型解析を行う。
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Biochimica et Biophysica Acta
巻: 1861 ページ: 2922-2933
10.1016/j.bbagen.2016.09.017.