研究課題
本研究は、アルテミシニンに対する耐性マラリア原虫の出現と拡散の危惧に対して、現場で患者をフォローするフィールド疫学的研究、原虫の遺伝子解析による分子疫学的、集団遺伝学的研究から、対抗する基礎を確立することを目的としている。従来から共同研究を行っているインドネシア、ミャンマーの既に収集しているフィールドサンプルについて、アルテミシニン感受性との関連が指摘されているKelch13遺伝子領域の多型解析を行った。ミャンマーでは、2007年ころからアルテミシニンに対する感受性の低下した熱帯熱マラリア原虫の存在が示唆されており、Kelch13遺伝子領域に変異が検出されたことが報告されている。我々は2005年から2010年のサンプルを解析して何種類かの変異型を検出し、その割合が年々増加傾向にあることを認めた。インドネシアでは2008年のACT導入によってマラリアの感染者数が減少している。2009-2012年にインドネシアの広い地域から収集した原虫株のKelch13遺伝子領域の遺伝子配列を調べ、すべて野生型で変異がないことを確認した。2015年以降のサンプルについても、収集した地域が限定されておりサンプル数も少ないが変異は検出していない。近年、アルテミシニンの治療効果の低下が疑われる臨床例が報告されているが、耐性型原虫の報告はない。フォローアップを含めたフィールド調査を申請しているところである。先にインドネシア・カリマンタン島の原虫サンプルの解析から見つけて報告したSP耐性と関連する2種類の新しいpfdhpsの遺伝子型の分布とそのマイクロサテライト領域を調べて、ヒトの往来に大きな影響を受けて拡散していること明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
既に収集しているフィールドサンプルについて、アルテミシニン感受性との関連が指摘されているKelch13遺伝子領域の多型解析を行って、ミャンマーサンプルにはKelch13遺伝子領域に変異を示す原虫株が存在するのに対して、インドネシアのサンプルからは変異がないことを確認した。検出した変異型遺伝子を用いることで、リアルタイムPCRと融解曲線分析でK13-propeller領域の変異を検出する簡便な方法を開発することが可能である。インドネシアの熱帯熱マラリア原虫サンプルからはKelch13遺伝子領域に変異が見つからず、アルテミシニン耐性はないと考えられるが、治療効果の低下が疑われる臨床例が報告されていることを考えるとフォローアップを含めたフィールド調査が必要であり、そのための手続きを行っている。
アルテミシニンに対する耐性マラリア原虫の出現と拡散の危惧に対して、現場で患者をフォローするフィールド疫学的研究、原虫の遺伝子解析による分子疫学的、集団遺伝学的研究を継続して進める。また、リアルタイムPCRをフィールドでの原虫遺伝子の検出、解析に応用できれば非常に有用である。マラリア原虫感染の検出と原虫種の同定、感染率の定量化、薬剤耐性型遺伝子の検出への簡便な方法を確立したいと考えている。
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