研究課題
本研究は、アルテミシニンに対する耐性マラリア原虫の出現と拡散の危惧に対して、現場で患者をフォローするフィールド疫学的研究、原虫の遺伝子解析による分子疫学的、集団遺伝学的研究から、対抗する基礎を確立することを目的としている。インドネシアでは2008年にマラリア治療の第一選択薬としてアルテミシニン併用療法(ACT)が使用されるようになり、2017年には感染率を10年前の約1/3にまで減少させることが出来たと報告されている。しかし、東南アジア各国でアルテミシニンに耐性を示す熱帯熱マラリア原虫の出現が報告され、世界のマラリア感染地域においては、ACT耐性の疑われる原虫株を検出するシステムを構築して拡散を防ぐことが重要となっている。インドネシア・フローレス島のマラリア患者について、ACTを用いた治療後のフォローアップを行い、すべての患者において三日後には末梢血にマラリア原虫が検出されず、アルテミシニン併用療法が有効でアルテミシニン耐性原虫が認められないことを確認した。前年度は、既に収集しているインドネシアの広い地域からの熱帯熱マラリア原虫について、アルテミシニン耐性と関連するKelch13遺伝子領域の多型解析を行い、これらの原虫に変異が認められないことを明らかにした。インドネシアのマラリア原虫では、アルテミシニン耐性は検出されていない。今回単離したマラリア原虫に加えて、これまでに得ているインドネシアの広い地域からのマラリア原虫について、薬剤耐性と関連する幾つかの遺伝子を解析して、それぞれの地域で特徴ある遺伝子型が検出されることが認められた。インドネシアに特徴的な2種類のpfdhpsの変異について、最初は一部地域にのみ検出されていたが、ヒトの移動に伴ってほかの地域にも広まっていったことを明らかにした。これは、ヒトの移動に伴って、薬剤耐性マラリア原虫が拡散する危惧を示唆している。
3: やや遅れている
マラリア治療薬としてアルテミシニン併用療法を用いて以来、各地で感染者の割合が減少しており、十分な人数のマラリア感染者を得るのに時間を要する状況になっている。アルテミシニン耐性型原虫の出現と拡散の危惧に対して、インドネシア・フローレス島で、アルテミシニン併用療法で治療した患者のフォローアップを行い、すべての患者で三日目には末梢血から原虫が消失、アルテミシニン併用療法が有効でアルテミシニン耐性原虫が認められないことを確認した。前年度、アルテミシニン感受性との関連が指摘されているKelch13遺伝子領域の多型解析を行って、ミャンマーサンプルにはKelch13遺伝子領域に変異を示す原虫株が存在するのに対して、インドネシアのサンプルからは変異がないことを確認している。インドネシアでも治療効果の低下が疑われる臨床例が報告されたことがあることを考慮すると、現場に近い保健所において、簡単に感度よくマラリア感染を検出出来て、原虫遺伝子の変異の有無も調べることのできる方法を開発する必要がある。それを踏まえて、簡単な操作による遺伝子の単離と簡便なリアルタイムPCRを用いた方法を検討している。
継続して、原虫の遺伝子解析による分子疫学的、集団遺伝学的研究と、現場で患者をフォローするフィールド疫学的研究を行って、アルテミシニンに対する耐性マラリア原虫の出現と拡散の危惧に対応する基礎研究を進める。マラリア治療の第一選択薬としてアルテミシニン併用療法(ACT)が使用されて、マラリアの患者数は減少し、マラリアの脅威を激減させることが出来ている。しかし、多くの地域で媒介蚊はそのまま生息している場合が多く、ヒトの移動によるアウトブレーク、薬剤耐性原虫の拡散に対応するためには、血中の原虫数が低い感染者も検出して治療することが必要となる。マラリア感染の現場で、簡便に原虫を同定、感染率の定量化、遺伝子変異も検出することの出来る方法として、リアルタイムPCRの有用性の検証へと進めたいと考えている。
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Malaria Journal
巻: 17 ページ: 475 (1-14)
10.1186/s12936-018-2597-6