研究実績の概要 |
Amphimerus属肝吸虫のミトコンドリアDNA全長の塩基配列を解読し、本虫の分子生物学的特徴を明らかにした(Ma et al., 2019)。この配列を用いた系統解析の結果から、本虫が後睾吸虫科(肝吸虫類)に属することに間違いないと確認した。 病理組織学的な検討を実施し、Amphimerus属肝吸虫に対するハムスターの感受性は高く、1頭当たり平均42隻(投与メタセルカリアの35.5%)の虫体が回収された。感染後17日と最も早期に剖検した個体からは、子宮内に虫卵を認めない未成熟虫も胆管から検出されたが、虫体後半部に卵黄腺が分布しており、本属の特徴は感染初期より発現することを確認した。また、この個体では、肝実質に虫道性病変を認めず、幼虫は胆道系を逆行して胆管・胆嚢に定着すると考えられた。感染後の日数が経過するにしたがい、胆管上皮細胞の過形成と胆管の拡張が主病変として顕著になったが、1年を超える長期感染個体でも、肝実質への線維化の波及は限定的であり、典型的な肝硬変像の乏しさが本虫感染の特徴と考えられた。 肝蛭に関する検討では、エクアドルの虫体はFasciola hepatica(Fh)であることを分子学的に明らかにした。エクアドルのFh虫体と欧州および南米各国のFh虫体とについて、ミトコンドリアのnad1遺伝子の塩基配列を解読し、系統関係を解析した。その結果、エクアドルのFh虫体は、南米各国のFh虫体と同様に、欧州のFhと遺伝学的に近縁な集団であることが分かった。欧州の植民地時代に家畜とともに持ち込まれて定着した集団であると推察された。肺吸虫に関しては、人への感染源となる淡水産カニの形態と地理的分布について調べ、新たな流行地を発見して誌上報告した。
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