研究実績の概要 |
食道癌、特に腺癌の罹患率は多くの国で増加の一途をたどっている。特に、中国河北省では食道癌の発症率がWHOの推定発症率に比べて5倍以上高い地域もある。本研究では次の2点を目的とした疫学研究を行う;(1) 中国河北省の食道癌多発地域とそれ以外の地域において、環境要因、後天的要因の大規模疫学データを収集し、食道癌発症に強く関与する確証的なリスク因子を同定する;(2) 発癌物質の除去や生活習慣の改善コストと癌発症リスクの低減効果とを考慮した費用対効果分析を行う。研究成果として、次のことが得られた;①食道癌多発地域である河北省渉県に研究期間中6回訪れ、渉県のがんセンターにおいて住民健診データ収集を共同で行った。癌患者と健常者合わせて40,000人の属性、生活習慣、環境に関するデータを収集した。同時に当初の目的である水質(主に、硝酸塩、亜硝酸塩、アンモニア)に関する調査も150か所で行った;②本研究に関連した一連の水質調査にもとづき、飲料水(雨水の貯水池など)における硝酸塩とアンモニアの混入が非多発地帯に比べて2倍以上高いことがわかった。発癌リスク因子の特定は本研究目的のひとつであり、環境要因である水質における発症リスク因子の同定は研大きな意義を持つ。また、このエビデンスの創出により、上水道整備を河北省政府に嘆願して2か所の農村で地下100m以下の地下水くみ上げ方式の上水道整備を実現した;③食道癌患者と健常者との生活習慣との比較により、生活習慣での発症リスク因子の特定を行った。その結果、食道がん多発地域では、熱い食べ物、カビの食品(アフラトキシン)の摂取などが同定された。さらには、喫煙と飲酒の相乗効果について多変量回帰モデルにより、その影響の程度を明らかにした。河北省政府から本研究業績に対して「燕趙賞」が贈られた。
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