研究課題/領域番号 |
16H05826
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
林 祥剛 神戸大学, 保健学研究科, 教授 (50189669)
|
研究分担者 |
矢野 嘉彦 神戸大学, 医学研究科, 講師 (60419489)
靭 千恵 神戸大学, 保健学研究科, 特命助教 (50570834)
亀岡 正典 神戸大学, 保健学研究科, 准教授 (60281838)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 疫学調査 / 教育活動 / インドネシア国 / 肝疾患 |
研究実績の概要 |
インドネシア国の慢性肝疾患の疫学調査について、ガジャマダ大学および関連施設より、約50例の肝細胞癌患者の疫学・臨床背景・CT画像を集積し、骨格筋量や脂肪量の定量解析を行い、肝疾患患者のサルコペニアについての検討を行っている。今後は同国に見合った評価方法の確立を目指している。 アイルランガ大学からは慢性肝炎および肝硬変肝癌患者からの血液検体約20例の収集を行い、次世代シークエンサーを用いてB型肝炎ウイルス全ゲノムの解析を行っている。疾患の進行とともに変化する変異や、薬剤耐性変異を検討し、全ゲノムレベルでの病態や薬効につながる肝炎ウイルス変異の検討を行っている。中間結果はアジア太平洋肝臓学会でも発表を行った。B型肝炎ウイルス感染と宿主因子との関連に関する研究では、アジア他国でもすでに検討されている特定の白血球抗原(HLA-DPタイピング)について検討を行い、インドネシア人についてもウイルスの持続感染、自然排除や疾患の進行に関わっていることを明らかにした。この結果はアジア太平洋肝臓学会(APASL single topic conference -6th HBV Conference)の中で発表し、優秀演題(Best Poster Presentation Award)にも選定された。 肝炎ウイルスに対する創薬研究については、B型肝炎ウイルスゲノムを誘導発現するヒト肝がん細胞を用いて、薬剤スクリーニングのためのアッセイ系を確立した。この系を用い、現在広く用いられている核酸アナログ製剤によりウイルス増殖が抑えられることを確認した。現在までに、薬用植物の成分であるクロロフィル分解産物に強い抗ウイルス活性があることを見いだした。 現地への教育活動として、平成28年9月にはガジャマダ大学およびアイルランガ大学において、現地学生や研修医も含めて肝疾患の診断学についての教育講演を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
神戸大学とガジャマダ大学においてのMTAを締結し、患者血液検体や画像検査データの共有、国内外への輸送手続きなどを行うとともに、倫理委員会申請を行い、研究遂行についての整備を行った。 ガジャマダ大学からは、臨床情報やCT画像の情報共有が可能となっており、これまですでに約50症例の肝細胞癌患者の臨床情報、画像の共有を行うことができている。内臓脂肪や皮下脂肪、骨格筋の定量評価、サルコペニアの評価は今後行っていく予定である。進行肝疾患患者における細菌性腹膜炎、肝性脳症の頻度などについても、今後臨床情報から検討していく予定である。 またアイルランガ大学からは、B型肝炎ウイルス検体の集積を行い、慢性肝炎および肝硬変肝癌といった病態の異なる患者からの検体約20例の集積を行うことができている。ウイルスの変異解析については、順次次世代シークエンサーを用いて解析中であり、現在約半数例の中間検討が終わっている。 肝炎ウイルスに対する創薬研究については、薬剤スクリーニングのためのアッセイ系を確立した。B型肝炎ウイルスゲノムを誘導発現するヒト肝がん細胞を用いて、培養上清中のHBsを特異抗体により補足し、HBV粒子中のHBVゲノムDNAを定量することで、比較的短期間に感染粒子の特異的検出が可能となった。この系を用いてクロロフィル分解産物に強い抗HBV活性があることを見いだした。また、インドネシア科学院と、インドネシア産薬用植物抽出エキスの輸出に関する手続きを進めており、今年度早期には薬用植物エキスのスクリーニング検査を開始する予定である。 人的交流や教育についても並行して進めており、平成28年9月にはガジャマダ大学およびアイルランガ大学において、スタッフ間でのミーティングを行うとともに、医学部生や専攻医なども対象に教育講演をおこなうことができた。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度に引き続き現在の研究体制を維持し、研究を遂行する。 慢性肝疾患の疫学調査については、ガジャマダ大学消化器内科・放射線科医師の協力のもと、引き続き肝細胞癌患者の症例集積を行う。臨床背景と画像(CT検査)データをもとに、ウイルス肝炎や脂肪性肝炎などのリスク因子の解明にあたる。またインドネシア国ではまだ研究がほとんどなされていない脂肪性肝炎の実態、肝疾患患者の骨格筋量の低下(サルコペニア)についても検討を行い、今後一定の症例集積ができた段階で情報公開を行い、同国の肝疾患の問題点抽出と診療への還元を行う。また、末期肝硬変患者に見られる感染症の臨床病理学的、遺伝疫学的な解析についても、引き続き症例の集積を行い、病態の進行にかかわる細菌種の検証とそれに対する適正な抗生物質の使用に向けた提唱を行う。平成29年度には特にCT画像をもとに客観的に評価を行いそのリスクを明らかにし、学会や論文などで結果の公開を行っていくことを目標としている。当研究事業の最終年度となる平成30年度には、啓蒙・教育活動にテーマを移していくことを目標とする。 B型肝炎ウイルスについては、アイルランガ大学熱帯病研究所の協力のもと、B型肝炎ウイルス検体の集積の継続を行う。引き続き次世代シークエンサーにて詳細な変異解析を行い、得られたシークエンスデータをもとに、薬剤耐性ウイルスの検証を行い、その蔓延状況についてデータの集積を行う。最終年度に向けて、平成29年度中に薬剤耐性ウイルスを検出するキットの必要性評価を評価する。 平成29年度初頭には、神戸大学とインドネシア科学院(LIPI)とのMOU、MTAが締結し、インドネシア国からインドネシア産薬用植物抽出エキスが搬入されてくる。今後は、これまでに確立したB型肝炎ウイルスゲノム誘導発現系を用いて、HBV感染を阻害する薬用植物エキスのスクリーニングと毒性評価を行っていく。
|