研究実績の概要 |
エイズ診断の指標疾患に原虫症(クリプトスポリジウム下痢症)が含まれることで、原虫感染は一般にヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染と関連すると考えられてきた。しかし、我々は先行研究で、途上国の小児において、HIV感染はアメーバ(Entamoeba, E)感染の危険因子ではなく、ジアルジア遺伝子型Bの感染因子であることを見出した。これは、HIV感染における腸管寄生原虫の感染にこれまでに考慮されてこなかった機序が存在することを示唆しており、その機序解明は、HIV感染管理に新たな視点をもたらす可能性があると考えた。本研究はHIV感染と非感染小児の免疫学背景および社会行動学的要因と各種腸管病原体の感染との関連を調査し、HIV感染小児における腸管病原体の感染リスク要因を解明することを目的とした。 ケニアのHIV感染小児[HIV(+),87名]と非感染小児[HIV(─), 85名]を研究対象とした。HIV(+)のアメーバ感染率はHIV(─)より低かった(63.2% vs. 78.8%, P=0.02)、高いCD4/CD8比はアメーバ感染と関連していた(OR 3.3, P<0.01)。HIV(+)女児のジアルジアB感染率(15.6%)はHIV(+)男児(40.5%)とHIV(─)女児(37.8%)より低かった(P<0.01、P=0.02)。また、飲用水の煮沸しないこと(OR 3.7, P=0.04)と兄弟などの世話をすること(OR 2.8, P<0.01)はジアルジアBの感染危険因子であった。また、HIV感染は女児においてジアルジアBの感染と負に相関し、男児においては正に相関していた。 アメーバ感染は小児のよりよい免疫状態の指針である。ジアルジアBの感染は衛生状況と関連し、HIV感染の影響は男女で違う傾向が見られた。飲用水の品質改善はケニア小児のジアルジアBの感染予防に重要である。
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