研究課題/領域番号 |
16H05860
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
日高 昇平 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 准教授 (50582912)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 身体模倣 / 行為 / 分節化 / 意図推定 / 力学系 |
研究実績の概要 |
人の認知的活動の多くは、他者との身体的な相互作用を通じてなされる。こうした社会的な相互作用の基盤を支えていると考えられるのが、人が固有に有する身体的模倣である。身体模倣の実現には、複数の感覚器・効果器の間で、さらに自己と他者の間で表現を変換する必要があり、高度な計算過程を要する。本研究は、特定の種類の身体運動が固有にもつ力学系の次元を基礎として、身体運動の教師なしの分節化および動作種類の同定が可能である事を実証する。また、特定の運動を生成するための基礎理論の構築を目指す。 平成29年度には、前年度に取得した身体運動データを基に、身体部位および運動種の分節化の成績の向上を目標として研究を行った。この段階の主たる技術的な課題として、次元推定法の計算の効率化、および、多様な条件で取得された運動データに対する汎化性能の担保・分節化精度の向上が挙げられる。 こうした目標に対して、本研究プロジェクトでは、当初の計画に従って研究員を1名雇用して、共同して研究を進めた。具体的には、モーションキャプチャ装置などを用いた人の運動を計測する実験系から各種身体運動データを取得する手法の確立、すなわち、運動データの欠落や誤認識などを補正する方法論などを構築した。現時点では、手動で補正したデータの解析を進めるとともに、より効率的にデータ解析を進めるべくデータ前処理用のインターフェイスおよびデータ補正アルゴリズムの構築を行った。この過程で、データ補正問題の一部は、対応問題と呼ばれる困難な問題の一種であることが判明した。 また、前年度から引き続き、上記のデータ計測・分析と並列的に力学モデルのシミュレーション研究も進めている。この研究から、類似の動作であっても、運動制御系が異なる場合、次元推定法を用いることでその違いを識別できること、さらに異なる運動制御系に相当する類似の運動を生成可能であることなどの知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の目標は、運動種の同定手法を構築する事であったであった。現時点では、この目標は一定程度達成されており、また身体運動データを取得する方法論に関して当初想定されていなかった前処理の自動化手法にも着手している。また、我々の進めている研究で、情報理論をベースとした集合関数の最適化計算により、複数の行為種に対して、行為ごとの事前知識を要さず、独立に制御可能な身体部位が特定できることがわかった。この知見は、特に、モーションキャプチャなどで計測する身体部位の特徴点(マーカー)の空間的なずれなどに起因するノイズなどを補正するために有用である可能性がある。このような知見は、計画当初の予定にはなかった要素技術の開発につながると期待できる。 これに加えて、当初の計画では3年目以降に行う予定であった力学モデルベースのシミュレーション研究にも早い時点で着手している。その結果、シミュレーションに基づく理論的な予想を、実験系で試すことができつつあり、研究プロジェクトの2年目としては十分な成果が上がっていると考えられる。従って、本研究の進捗状況はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、当初計画を部分的に修正し、こうした要素技術の開発にも注力しながら、最終的な目標である身体模倣のメカニズムの解明に向けてこれまでの研究成果をまとめていく予定である。すでに運動の分節化、認識、生成の各要素技術は少なくとも部分的には成果を得ており、これを統合した計算モデルの構築が今後の課題である。 本研究計画も今年度が最終年度に当たるため、これまでの研究成果をまとめ、学術論文として発表することに注力していきたい。すでに、いくつかの国際学会などで論文を継続的に発表しているが、それらの集大成となる論文の発表を目指す。
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