研究実績の概要 |
平成29年度の研究では、正直さに対する潜在的な道徳的価値観を測定するための潜在連合テスト(IAT)を用いた行動実験を実施した。IATは2種類の刺激をそれぞれ、意味的に一致もしくは一致しないカテゴリーに分類する課題であり、その反応時間から、被験者がある対象に対して抱いている潜在的な好みの強さを測定できるパラダイムである(Greenwald et al., 1998, Journal of Personality and Social Psychology)。先行研究においても、「暴力」-「悪い」などの連合の強さに個人差があり、反応時間に反映されることが示されている。本研究では、正直さと不正直さを示す刺激の分類を行うことで、潜在的な「嘘」-「悪い」の連合の程度の個人差を定量化した。その結果、IATのスコアが罰の回避に動機づけられる嘘の割合を予測しうる可能性が示された。予備的な知見のため、追試も必要であると考えられるが、本研究成果は平成30年度以降に実施する脳機能画像実験の基礎となるものである。 また、今年度は海外の研究協力者と共に、米国刑務所に収監中の囚人を対象とした脳機能画像実験のデータ分析を進めることができた。結果として、サイコパス傾向の高い囚人は嘘をつく際の反応時間が早く、また前部帯状回の活動が低下しており、認知的葛藤が低減している可能性が示された。これらの結果は、サイコパスが平然と嘘をつくことを神経科学の観点から説明しうる貴重な知見になると考えられる。 さらに、上述のIATを応用した関連研究として、「浮気」に対する興味関心の制御に関わる認知基盤に焦点を当てた研究を報告した。特定のパートナーと交際している恋愛中の男性が、魅力的な女性に対する興味関心を制御するには、1) 浮気を是としない潜在的な態度と、2) 前頭前野による行動制御の機構、の両者が必要であることが示された。
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