研究課題/領域番号 |
16H05862
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研究機関 | 国立研究開発法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
天野 薫 国立研究開発法人情報通信研究機構, 脳情報通信融合研究センター脳情報通信融合研究室, 主任研究員 (70509976)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 経頭蓋交流電気刺激 / MEG / 視覚 / 錯視 / アルファ波 |
研究実績の概要 |
経頭蓋交流電気刺激を用いてアルファ波の周波数を増減させる技術の開発に成功した.ここではキャリア周波数を200Hzとし,その強度をアルファ帯域で変調させるAM変調波形を用いることで,MEG計測中のノイズ軽減に成功し,電流刺激中のMEGAN計測を可能とした.またこの技術を用いて,ジター錯視と呼ばれる錯視の知覚が,アルファ波のリズムで生じていることを実証した. さらに,視覚領域間,特に背側視覚領域と腹側視覚領域の情報のやり取りがアルファ波のリズムで行われているとの仮説を実証するため,ジター錯視知覚時のMEGを計測し,アルファ帯域の活動をDICS(Gross et al., 2001)と呼ばれる周波数領域における活動源推定法を用いて推定した.特に,背側,腹側視覚領域間のアルファ周波数における位相差の試行にわたる安定性(コヒーレンス)を定量化しアルファ波領域間相互作用仮説を検証した.領域間の情報伝達には一定の位相差が必要であるため(Fries, 2005),位相差がゼロでないコヒーレンスのみを抽出する虚部コヒーレンスを用いて解析した.その結果,背側視覚領域であるIPS野と腹側視覚領域であるIT野のアルファ帯域におけるコヒーレンスが,ジター錯視の知覚中に増大していることが明らかになった. 一連の結果は,アルファ波が視覚領域間で情報をやり取りする際のタイミングを決めるクロックとして機能していることを示唆するものである.本研究で示したのはジター錯視の知覚に関連したアルファ波の機能のみであるが,一般性の検証が今後の課題となる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画書に記載の通りに実験が進捗している.
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今後の研究の推進方策 |
現在までに得られた神経科学的な知見を実社会へ応用する可能性を探るため,Nバック課題等の短期記憶課題,RSVP(rapid serial visual presentation)課題等の注意課題の成績とアルファ周波数の関係を網羅的に調べ,アルファ周波数と成績が相関する認知課題を見いだす.特にアルファ波に基づく領域間相互作用仮説の一般性を調べるため,例えば視覚刺激と聴覚刺激など複数の感覚モダリティを比較する課題の成績がアルファ周波数の変動に伴いどのように変化するのかを検討する.アルファ周波数と正あるいは負の相関を示す課題を見つけた後,③の技術を用いてアルファ周波数を操作した時の課題成績変化を定量化し,アルファ波の認知機能に対する因果的寄与を明らかにする.もしこの実験がうまくいけば,脳律動周波数の上げ,下げによって認知機能を向上させることが可能となり軽度の認知症への適用など医療応用等も考えられる.また,アルファ波の特定位相で領域間の情報のやり取りがなされているなら,下図に示すように単語を提示したアルファ位相に応じて記憶成績が変化することが予想される.このためリアルタイムでアルファ波をモニタし,適切なアルファ位相で単語や画像を提示することで効率的な記憶が可能かを検証する.
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