研究課題/領域番号 |
16H05867
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
豊浦 正広 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (80550780)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | コンピュータグラフィックス / 電子回路 / ウェアラブル機器 / ディジタルファブリケーション / 画像処理 |
研究実績の概要 |
織物は経糸(たていと)と緯糸(よこいと)が多数並列化し,格子状に織り重なる構造を持つ.ジャカード織機はそれぞれの格子点での経糸と緯糸の上下を任意に決定して,自動で織物を織ることができる.織物の格子パターンをデザインする問題は,ディジタル画像処理とは親和性が高く,我々は本研究課題開始時までに織物パターン合成のための織物画像処理を提案してきた.本研究でもこの織物画像処理の技術をさらに発展させる. さらに織物の新しい展開として,電極や導電性繊維を織物に織り込むことで機能性を持つ織物を提案する動きがある.導電性を持つ織物では,縫製することで持続的な生体信号計測が可能な着衣を作り出すことができ,医療・介護・スポーツ・インタフェースなどでの活躍が期待されている.本研究課題では,我々がこれまでに進めてきた美的織物作製のための画像処理を,導電性織物の機能性を高めるために転化することを目指す.導電性織物に以下の2点の機能を追加する. (1)自動作製 特定位置以外での絶縁性を保ちつつ,自動作製可能なパターンを開発する (2)感度向上 位置・信号強度の空間的な分解能を高める(符合化織の提案) 3年目は導電性織物と美的織物作製の両面で研究成果が得られた.加圧位置検出織物に関する論文がIEEE Transactions on Industrial Electronicsに掲載された.任意画像からの製織パターン生成に関する論文はIEEE Transactions on Industrial Informaticsに掲載された.また,心電図計測のための織物電極の開発を進め,想定の機能が実装できることを確かめた.国内研究会でも2件の発表(1件は招待講演)を行った.山梨県産業技術センターや大学が進める地方創生推進事業とも連携して,地域織物関連企業などへの広報を行い,産業応用やさらなる連携先の模索を進める.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
導電性織物と美的織物作製の両面で研究成果が得られた.導電性織物の成果物として,加圧位置検出織物を発表することができた.この織物は電源・均質・非均質の3層の織物を縫い合わせた構造を取る.当初は1層構造を計画していたが,電子回路の研究者らと議論を重ねる中でこの構造を発想し,この構造が核となって機能の実現にこぎつけることができた.同じ素材でできた織物の中で,位置によって“機能の異なる”状況を作り出す発想はこれまでの研究にはなく,真に新規のものであると考えている.加圧位置検出織物に関する論文はIEEE Transactions on Industrial Electronicsに掲載された.また,心電図計測のための織物電極の開発を進め,想定の機能が実装できることを確かめた.内容を拡充して国際誌に論文投稿の準備を進めている. 美的織物作製では,山梨県産業技術センターや地域織物関連企業とも連携して,研究成果を挙げることができた.任意画像からの製織パターン生成に関する論文がIEEE Transactions on Industrial Informaticsに掲載された.本研究で得られた成果から,織物でできた傘“こもれび”が開発されて,地域企業から発売となった.所属する山梨大学や山梨県として産官学連携による初めての技術移転成果となる.これに限らず,今後もさらに地域産業への技術移転を進めていきたい.
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今後の研究の推進方策 |
(1)符号化織による高感度な導電性織物パターンの設計と精度検証 これまでにはない特性を持つセンサとしての織物を開発することができてきており,この成果を生成パターンと導電率に関する実験的な知見としてまとめ,国際誌への掲載を目指す.既存の布電極による心電測定の基礎検証はすでに進めることができており,電子回路の特性によるノイズや,商用電源から受けるノイズが問題となることがわかってきた.ソフトウェア的なノイズフィルタを一部実装することもできており,これを如何にして織物上に実装するかを検討する.電気特性を高めるとともに,自動作製可能性についても考慮しながら進める. (2)産業利用可能性の検証と伝統地域産業復興の試み 山梨大学研究推進・社会連携機構,山梨県産業技術センターを通して,産業利用可能性を引き続き探る.2年目に特許出願した技術は,単に加圧位置検出織物の提案にとどまらず,織ることで機能を変えることを初めて提案するものであり,他の機能を織ることにも展開できる.伝統産業のニーズと最新のIoT分野のシーズを見ながら,次なる機能の実現に挑みたい.医療・介護・スポーツなどの分野が有望である.得られた成果は国内研究会や国際会議・国際論文誌へ投稿するとともに,地域の織物関連企業に技術紹介をして,広報に努める.
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