研究課題
本研究では世界で最も風化作用が活発なヒマラヤ水系の最下流の河川水と地下水を対象として,岩石の主要構成元素のうち安定同位体を持っているMg,Ca,Srなどに着目し,各元素の同位体指標から風化反応と陸と海の同位体フラックスを解明することを目的としている。これまでにベンガル平野から採取した河川水と地下水の測定をほぼ完了している。ここから全集水域で起こる風化反応の積分値を把握することに成功しており,2018年度中にこれらの結果を2編投稿した。陸域を含む地球表層における元素循環について総説としてまとめ(吉村,2019),またヒマラヤ地域の炭素循環についても報告した(Manaka et al., 2019)。河川水,地下水といった溶存成分の分析のみでなく岩石鉱物試料の分析まで拡充するために,導入した装置を用いて従来よりも迅速かつ安定した新規同位体分析の手法を報告した(Araoka and Yoshimura, 2019)。固体物質からの段階リーチング実験に取り組み,吸着態,炭酸塩,珪酸塩のそれぞれの成分が異なるSr同位体組成をもち,前述の順序で増加することを見出した。溶存成分の吸着量や海洋への元素輸送を制約するために重要な知見なので,対象元素を拡張した実験を進めている。河川(特にガンジス川)の輸送時に沈殿することが知られている炭酸塩鉱物の同位体分別についても,温度や沈殿速度の影響評価を進めている。
2: おおむね順調に進展している
河川水と地下水については測定を概ね完了し,順次投稿中である。固体試料の段階リーチング実験からは吸着態,炭酸塩,珪酸塩のそれぞれの成分が系統的に異なる同位体比をもつことや,ベンガル平野の地下水の浅部と深部で堆積物との反応度に大きな差が認められるなど,順調に新しい知見を得ている。地球表層の元素サイクルを駆動する各種反応についても応用を進めることができており,計画は順調に進展している。
当初の計画通り安定同位体分析を実施し,段階リーチングなどの新たな結果と合わせて成果発表を行う。ベンガル平野の同位体フラックスについて総括する。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
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