研究課題
本申請課題の目的は、ヒ素代謝(メチル化)酵素であるAS3MTの活性とヒ素代謝物組成、毒性影響にはどのような関連性があるのか?、AS3MT遺伝子多型・スプライシングバリアント(SV)がどのようにヒ素代謝能力に作用するのか?、そして各人種のAS3MT遺伝情報からヒ素代謝能力を予測できるかどうか?、について究明することである。本年度は、マウスを用いた慢性ヒ素曝露試験とフィールド調査・サンプリング、ヒ素代謝遺伝子多型のSV判定をおこなった。In vivo実験の方では、環境中から検出される濃度およびWHOの飲料水の基準値のヒ素をマウスに6か月間飲水曝露させた。曝露終了後、ヒ素濃度と酸化ストレスを測定した。その結果、ヒ素曝露によるヒ素濃度および酸化ストレスの増加は認められず、また両者に関連性もみられなかった。この条件では、ヒトにおいてはヒ素の影響がみられていることから、マウスはヒトよりもヒ素に対して耐性があるものと推察された。一方興味深いことに、ヒ素曝露により、マウスの肝臓中アルミニウム濃度が有意に増加していた。この原因についてはまだよくわかっておらず、情報を集めているところである。フィールド調査・サンプリングにおいては、ミャンマーの南西部で地下水を採取した。全体的にヒ素濃度は低値であったが、場所によってはWHOの基準値を超過していた。今回調査した地域においては、飲用にはボトル水を利用していたが、料理には汚染された地下水を利用していたことがわかった。SV判定においては、ポジティブコントロールサンプルで変異を確認することができ、分析法の確立はできた。しかし、実際に採取・調整したcDNAサンプルでは、明確な結果を得ることができなかったため、cDNAをさらに精製・濃縮して実施する必要がある。
3: やや遅れている
マウスを用いたヒ素の曝露試験では、曝露期間を昨年度の6倍に設定しておこなったが、ヒ素中毒の有意なエビデンスを確認することはできなかったため、その後の予定していたメタボローム解析等にも支障が生じた。バングラデシュ・フィリピンの調査は、カウンターパートがサバティカル研修等でタイミングが難しく、現地に赴いて調査・試料採取を実施することはできなかった。しかし、バングラデシュではすでに現地カウンターパートによってサンプリングは完了しており、サンプルの前処理・分析を実施する予定である。
地域住民の血液からDNAを抽出後、AS3MTの各SNPプライマーとともにサーマルサイクラーでPCRをおこない、制限酵素断片長多型法によりSNPを判定する。得られたSNPの連鎖不平衡解析を実施し、SNPのグループ、ハプロタイプ(HT)を特定する。一方で、血液からRNAを抽出・逆転写後、先行研究を基に作製したプライマーを用いてPCRをした後、アガロースゲルの電気泳動によりAS3MTスプライシングバリアント(SV)を確認する。両者の結果から、どのSNP・HTがSVのソースとなっているかを明らかにするとともに、ヒ素代謝との関係を重回帰分析に導入し、ヒ素代謝・毒性の強弱に重要な多型部位を探索する。とくに、インド・ミャンマー・ガーナに加え、過去に調査したベトナム・カンボジアについても再解析し、各人種におけるヒ素代謝能の違いとその遺伝的背景を特徴づける。最終的に、今回作製したSNP・HT・SVを組み込んだヒ素代謝、酸化ストレスの重回帰モデルを用い、HapMap等のデータベース上に掲載されている各人種のAS3MTの多型情報からヒ素代謝能を予測し、各人種における潜在的なヒ素に対する影響リスクを推定する。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 5件、 招待講演 1件)
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