本年度は転写因子AhRの活性化が授乳期の子マウスに引き起こす腎障害について機序を検証した。AhRは塩素化芳香族炭化水素類をリガンドとして結合することで活性化して核内に移行して異物応答配列XREに結合し遺伝子発現を誘導する。この経路はgenomic pathwayと呼称される。AhRは細胞質にてCa2+流入に引き続くシグナル伝達経路を活性化させる。この経路はnongenomic pathwayと呼称される。本研究では核移行シグナルNLSに着目し、NLSを持たないAhRであるAhR-NLSについてgenomic pathwayとnongenomic pathwayへの影響を検証した。陽性対照としたAhRはgenomic pathway活性化の指標となるCyp1a1の転写活性化、ならびに、nongenomic pathway活性化の指標となるcPLA2aリン酸化を引き起こした。一方でAhR-NLSはこれらの反応が生じなかった。これらの結果からNLSがAhRのnongenomic pathwayにも必要であることが示唆された。さらに、PGE2合成系酵素の遺伝子prostaglandin-endoperoxide synthase 2ならびにprostaglandin E synthaseのmRNA量増加、尿中PGE2濃度上昇、水腎症発症についてもAhR-NLSは引き起こさなかった。リガンド結合によるAhR活性化に引き続き核内で生じる転写活性化と細胞質におけるcPLA2a活性化はともに核移行と少なくとも初期の段階は共役して生じる可能性があると考えられた。
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