研究課題/領域番号 |
16H05894
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研究機関 | 福島県立医科大学 |
研究代表者 |
村上 道夫 福島県立医科大学, 医学部, 准教授 (50509932)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | リスク評価 / 福島第一原発事故 / 放射線被ばく / 生活習慣病 / 精神的ストレス / 費用効果分析 |
研究実績の概要 |
本研究では、今後の福島復興のために最適なリスク削減対策を提案するとともに、事前の準備として、原子力発電所(以降、原発)事故を想定したリスク管理戦略を構築することを目的とする。具体的には、被ばくリスク、糖尿病などの生活習慣病、精神的ストレスといった複合リスクを同一のリスク指標を用いて比較し、各諸対策の費用と削減可能リスクを算出することで、費用効果分析を実施する。さらに、放射性物質の移流拡散モデルの結果を適用し、仮想的に原発事故が生じた際の複合リスクを算出し、最適な対策を立案する。 平成28年度は、福島第一原発事故後の被ばくリスクを明らかにするために、相馬市における子供の個人線量計を用いて、事故から5年間の被ばく量の経年の推移を明らかにした。さらに、南相馬市と相馬市を対象に、福島第一原発事故後の糖尿病と被ばくリスクについて、損失余命の指標を用いて解析した。被ばくリスクについては、被ばく量データと広島・長崎での原爆被爆者の疫学調査の結果を用いて解析し、糖尿病リスクは糖尿病の事故前後の有病率の経年変化と日本人の糖尿病による死亡に関する疫学調査の結果を用いて解析した。精神的ストレスと被ばくリスクの比較については、損失幸福余命という新たなリスク指標を用いて解析するという道筋をつけ、アンケートを実施することで、精神的ストレスと幸福度の関係を明らかにした。また、精神的ストレスとの関連性が示されている放射線リスク認知についても着目し、放射線リスク認知と環境への安全観との関連性の経年変化も評価した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、当初の予定通りおおむね順調に進めることができた。とりわけ、被ばく量とその経年変化、糖尿病有病率の経年変化、リスク比較、アンケートに基づいた精神的ストレスと幸福度の関連性とその後のリスク評価への適用といった当初の予定を達成しただけでなく、平成29年度に実施する予定であった、除染の対策効果などについても明らかにすることもできた。また、精神的ストレスと密接な関連性のある放射線リスク認知とその安全観に関する経年評価も解析することができた。さらに、事故のような非定常時を想定した基準値の策定についての考えをまとめ、査読付き学術雑誌に掲載された。学術雑誌の掲載、学会発表も順調に進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、平成28年度に実施した解析結果を活用しながら、糖尿病などの身体的リスクに加えて、精神的ストレスと被ばくのリスクの比較の解析を進める。南相馬市や避難指示区域などを中心に、解析を実施する。平成28年度の解析によって空間線量の経年変化の評価手法の目途がたったため、雇用した研究員によって円滑にデータの収集と整理を行い、これらの解析も実施するとともに、ホールボディーカウンター、飲食物の出荷制限、除染、糖尿病といった対策の効果と費用の解析についても引き続き実施する。精神的ストレスと関連性が示されているリスク認知については、安全観との関連の経年変化だけでなく、その要因解析なども進める。平成30年度以降への本格的な解析の前準備として、仮想的な原発事故が発生した時の被ばく量の推定手法の構築を実施し、平成30年度以降にはこれらの結果をもとに、仮想的な原発事故発生時の複合リスクの比較や各種諸対策の費用効果分析を行う。 ここで得られた成果は、今後の福島復興ならびに事前の準備としてのリスク管理戦略を構築することになる。また、住民個々人のリスク対策にもつながることから、学術誌などで速やかに公表するだけでなく、自治体などの関係者に情報提供するとともに、メディアを介した情報発信や直接的な対話を進めていく。
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