昨年度に引き続き、試作した中間バンド太陽電池セルの特性評価を進めた。複数波長の光照射下における分光感度評価に加え、新たに導入した時間分解分光測定とデバイスシミュレータによる動作解析を併用して解析を行った結果、中間バンドとベース層の間に挿入したキャリアブロック層の界面に蓄積される電子密度が2段階光学遷移による光電流の大きさと直接関係していることが分かった。また試作セルの構造では内蔵電界が光吸収層全体に対して十分印加されておらず、光生成キャリアの取り出しが妨げられていることが示唆された。各層のドーパント分布を調整してバンドプロファイルが最適化されるよう構造設計を見直すことで、2段階光学遷移が起こる割合を改善することが可能だと考えられる。この他にGaAs:Nδドープ超格子の基礎物性評価の一環として、ラマン分光測定による評価を行った。窒素を含有する試料では290 cm-1付近の縦光学(LO)フォノンのピークに加え、本来は禁制ピークである268 cm-1付近に横光学(TO)フォノンのピークが観測されたことから、窒素の導入で結晶対称性が低下していることが示された。比較のため測定した一様に窒素ドープされたGaAsN混晶膜に対して超格子試料は同程度の窒素濃度ではTOフォノン強度が低く表れていることから、δドープ構造を利用して混晶を作製することで結晶対称性の低下が抑制できることが分かった。希釈窒化物半導体ではNの一部がN-NやN-Asのような分離型格子間原子となり、これらが深い準位を形成することが指摘されている。GaAs:Nδドープ超格子では伝導帯中のE+バンド起因の光学遷移が強く観測されるなど、中間バンド材料として優れた光学特性が得られており、分離型格子間原子など結晶対称性を低下させるような欠陥構造の抑制が優れた光学特性の起源となっているものと考えられる。
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