研究課題
最近、長鎖奇数鎖脂肪酸(Odd Chain Fatty Acids: OCFAs)は疫学研究によって慢性炎症や肥満・糖尿病を抑える新たな機能性脂肪酸としての可能性が示唆されている。しかし、現在までにOCFAsの機能性研究はまったくといって無いに等しく、詳細な抗炎症作用機序や生活習慣病との関わりについてはほとんどわかっていない。そこで本研究では、OCFAsであるヘプタデカン酸(C17:0)、ペンタデカン酸(C15:0)に着目し、抗炎症作用・抗生活習慣病作用機序の解明を試みることとした。28年度は、OCFAs(C15:0, C17:0)の抗炎症作用機序を解明するため、急性炎症モデル、慢性炎症モデルである肥満・糖尿病を発症するモデルマウスにOCFAsを摂取させ、生活習慣病の軽減作用を確認した。肥満・糖尿病モデルマウスであるKK-Ayとその対照群(C57BL/6J)を高脂肪食(HFD)群、普通食(NFD)群さらにOCFAsであるC17:0を餌に混合した群に分けた後、長期飼育した。その結果、C17:0摂取による体重や血糖値の低減効果は確認できなかった。しかし、血中トリアシルグリセロール値やコレステロール値はKK-Ay-NFD群やHFD群と比較してC17:0摂取群で有意に減少していた。さらにC17:0摂取群ではIL-6やTNF-a、MCP-1などの炎症関連遺伝子群の発現が対照群とKK-Ay-NFD群、KK-Ay-HFD群と比較して有意に減少していた。これらの結果より、OCFAs摂取は肥満・糖尿病における炎症惹起を低減する効果があることが示唆された。さらにOCFAsの抗炎症作用機序の解明を試みた結果、マウスマクロファージ様RAW264.7細胞を用いた実験により、炎症関連遺伝子発現に深く関与するNF-kB p65の分解を促進することによって炎症を抑制していることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
28年度は、長鎖奇数鎖脂肪酸(OCFAs)の抗炎症作用機序を解明するため、急性炎症モデル、慢性炎症モデルである肥満・糖尿病を発症するモデルマウスにOCFAsを摂取させ、生活習慣病の軽減作用を確認した。慢性炎症モデルマウスについては肥満・糖尿病モデルマウスであるKK-Ayとその対照群(C57BL/6J)を高脂肪食(HFD)群、普通食(NFD)群さらにOCFAsであるC17:0を餌に混合した群に分けた後、12週間飼育した。飼育中、血糖値やトリアシルグリセロール(TG)値など血漿生化学検査、糖負荷試験(OGTT)やインスリン負荷試験(ITT)を行った。また、解剖後、肝臓、白色脂肪および脾臓における炎症関連遺伝子発現をreal-time qPCRを用いて測定し、OCFAsの抗炎症作用について検討した。その結果、C17:0摂取による体重や血糖値の低減効果は確認できなかった。しかし、血中TG値やコレステロール値はKK-Ay-NFD群やHFD群と比較してC17:0摂取群で有意に減少していた。さらにC17:0摂取群ではIL-6やTNF-a、MCP-1などの炎症関連遺伝子群の発現が対照群とKK-Ay-NFD群、KK-Ay-HFD群と比較して有意に減少していた。これらの結果より、OCFAs摂取は肥満・糖尿病における炎症惹起を低減する効果があることが示唆された。さらにOCFAsの抗炎症作用機序解析をマクロファージ様培養細胞であるRAW264.7を用いて行った結果、LPSやPMA曝露による炎症刺激時において、C15:0やC17:0の投与を行うとIL-6やIL-1b、COX-2などの炎症関連遺伝子群の発現が顕著に抑制されることがわかった。また、その抑制作用メカニズムとしてNF-kBの転写活性をNF-kBp65の分解を促進することで阻害していることが明らかとなった。
28年度に行った研究成果により、マウスにおける長鎖奇数鎖脂肪酸(OCFAs)の投与によって、炎症関連遺伝子群の有意な発現抑制効果が認められた。また、マウスマクロファージ様RAW264.7細胞を用いた実験により、炎症関連遺伝子発現に深く関与するNF-kB p65の分解を促進することによって炎症を抑制していることが明らかとなった。本年度は、p65分解促進効果につながるOCFAsの生体内でのターゲット遺伝子の同定をクリックケミストリーの手法を用いて試みる。クリックケミストリーはアジドとアルキンが付加環化反応によって化学的に安定なトリアゾール環を生成することを利用して生体分子の蛍光標識や化合物の生体分子への付加反応を容易に検出することができる方法である。まず、①培養細胞に炭素鎖末端にアジド基(-N3)もしくはアルキン(≡)を導入したOCFAs誘導体を添加した後、一定時間培養し、②タンパク質を抽出後、③アジド基と特異的に反応するアルキンもしくはアジド基を化学構造に持つbeadsまたは蛍光標識物質を④銅イオン存在下で反応させることによって、⑤安定化したタンパク質-脂肪酸-トリアゾール抱合体を得る。この生成された抱合体を特定のアミノ酸残基で切断する酵素でペプチドを生成させ、それを⑥高分解能質量分析計で解析することによってOCFAsが結合するタンパク質を⑦同定する。それによって同定されたタンパク質が細胞内のどこに局在し、また、機能を有しているかが分かれば、機能性の解明に大いに役立つと考える。そのための、ターゲットタンパク質同定解析のためのタンパク質発現解析費(Click chemistry用試薬や検出器等)やLC/MS解析費(有機溶媒、カラム等)が必要となる。ターゲット遺伝子候補が同定できた後、そのノックアウト細胞やノックアウトマウスの作出を試み、さらなる機能性作用機構の解明を試みる。
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