研究課題/領域番号 |
16H05898
|
研究機関 | 愛知医科大学 |
研究代表者 |
伴野 勧 愛知医科大学, 医学部, 助教 (60554011)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 脂肪酸 / クリックケミストリー |
研究実績の概要 |
長鎖奇数鎖脂肪酸(Odd Chain Fatty Acids: OCFAs)は疫学研究によって慢性炎症や肥満・糖尿病を抑える新たな機能性脂肪酸としての可能性が示唆されている。しかし、現在までにOCFAsの機能性研究はまったくといって無いに等しく、詳細な抗炎症作用機序や生活習慣病との関わりについてはほとんどわかっていない。そこで本研究では、OCFAsであるヘプタデカン酸(C17:0)、ペンタデカン酸(C15:0)に着目し、抗炎症作用・抗生活習慣病作用機序の解明を試みている。 昨年度までに行った研究成果により、マウスにおける長鎖奇数鎖脂肪酸の投与によって、IL-6やCOX-2など炎症関連遺伝子群の有意な発現抑制効果が認められた。また、マウスマクロファージ様RAW264.7細胞を用いた実験により、炎症関連遺伝子発現に深く関与するNF-kB p65の分解を促進することによって炎症を抑制していることが明らかとなった。 そこで29年度は、p65分解促進効果につながる長鎖奇数鎖脂肪酸の生体内でのターゲット遺伝子の同定をクリックケミストリーの手法を用いて試みた。 クリックケミストリーはアジドとアルキンが付加環化反応によって化学的に安定なトリアゾール環を生成することを利用して生体分子の蛍光標識や化合物の生体分子への付加反応を容易に検出することができる方法である。まず、ヘプタデカン酸(C17:0)にアジド基(-N3)もしくはアルキン(≡)を導入した誘導体の合成を行った。ヘプタデカン酸誘導体、LPSをRAW264.7に添加後、一定時間培養し、タンパク質を抽出した。抽出したタンパク質を用いてウエスタンブロットにてp65の分解促進活性の有無を確認した所、ヘプタデカン酸と同様のp65分解促進効果を有する誘導体はなかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
29年度は平成28年度に行った研究成果により、マウスにおける長鎖奇数鎖脂肪酸の投与によって、炎症関連遺伝子群の有意な発現抑制効果が認められた。また、マウスマクロファージ様RAW264.7細胞を用いた実験により、炎症関連遺伝子発現に深く関与するNF-kB p65の分解を促進することによって炎症を抑制していることが明らかとなった。 そこでp65分解促進効果につながる長鎖奇数鎖脂肪酸の生体内でのターゲット遺伝子の同定をクリックケミストリーの手法を用いて試みた。 クリックケミストリーはアジドとアルキンが付加環化反応によって化学的に安定なトリアゾール環を生成することを利用して生体分子の蛍光標識や化合物の生体分子への付加反応を容易に検出することができる方法である。まず、ヘプタデカン酸(C17:0)にアジド基(-N3)もしくはアルキン(≡)を導入した誘導体の合成を行った。ヘプタデカン酸誘導体、LPSをRAW264.7に添加後、一定時間培養し、タンパク質を抽出した。抽出したタンパク質を用いてウエスタンブロットにてp65の分解促進活性の有無を確認した所、ヘプタデカン酸と同様のp65分解促進効果を有する誘導体はなかった。 ヘプタデカン酸はパルミチン酸(C16:0)やステアリン酸(C18:0)と炭素鎖が一つ異なることで抗炎症作用を示すことから、ヘプタデカン酸の化学構造の少しの変化で活性を失うことから、炭素鎖数を変更することや修飾部位の検討が必要であると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
クリックケミストリーに用いるアルキンもしくはアジド基を有するヘプタデカン酸(C17:0)誘導体はヘプタデカン酸と同様の抗炎症作用を有しなかったため、炭素鎖の異なるペンタデカン酸(C15:0)、パルミチン酸(C16:0)、ステアリン酸(C18:0)にアルキンもしくはアジド基を導入した脂肪酸を合成し、ヘプタデカン酸のp65分解促進効果を指標に同様の活性を有する脂肪酸の探索を行う。挙動の一致する脂肪酸が見つかった後は、クリックケミストリーの手法を用いて、ヘプタデカン酸が結合するターゲットタンパク質の探索を行う。具体的には、タンパク質を抽出後、③アジド基と特異的に反応するアルキンもしくはアジド基を化学構造に持つbeadsまたは蛍光標識物質を④銅イオン存在下で反応させることによって、⑤安定化したタンパク質-脂肪酸-トリアゾール抱合体を得る。この生成された抱合体を特定のアミノ酸残基で切断する酵素でペプチドを生成させ、それを⑥高分解能質量分析計で解析することによってOCFAsが結合するタンパク質を⑦同定する。それによって同定されたタンパク質が細胞内のどこに局在し、また、機能を有しているかが分かれば、機能性の解明に大いに役立つと考える。そのための、ターゲットタンパク質同定解析のためのタンパク質発現解析費(Click chemistry用試薬や検出器等)やLC/MS解析費(有機溶媒、カラム等)が必要となる。 ターゲット遺伝子候補が同定できた後、そのノックアウト細胞やノックアウトマウスを用いてさらなる詳細な機能性作用機構の解明を試みる。
|