研究課題/領域番号 |
16H05902
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
末森 薫 国立民族学博物館, 文化資源研究センター, 機関研究員 (90572511)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 中国仏教石窟 / 壁画 / 麦積山石窟 / 光学撮影 / 制作技法 / 敦煌莫高窟 / 千仏図 / 描写方法 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、1.狭帯域光源偏光撮影法の確立および基礎実験、2.麦積山石窟壁画片の調査、3.麦積山石窟壁画の現地調査、4.敦煌莫高窟千仏図描写法の目視調査の四つの項目を軸として、国内のおける調査・実験、中国甘粛省への二回の現地調査をおこなった。 国内では、彩色材料を塗布して作成した彩色プレパラートおよび麦積山石窟の壁画片11点を対象として、狭域帯の近紫外域、可視域、近赤外域の狭帯域光源や偏光光源、モノクロカメラを用いた光学撮影、分光システムを用いた彩色材料や蛍光反応の測色を実施した。また、撮影条件の検討等、後述する現地調査の事前準備をおこなった。得られた成果の一部について、日本文化財科学会第33回大会にて発表した。 現地調査は8月と10月に二回実施した。8月には、河西回廊沿いの仏教石窟(炳霊寺石窟、天悌山石窟、金塔寺石窟、文殊山石窟、昌馬石窟、西千仏洞、莫高窟)にて、壁画の制作技法や描写方法に着目した目視観察調査を実施した。また、金昌および敦煌で開催された国際学術討論会に参加し、国内外の専門家と意見交換や学術交流をおこなった。本調査で得られた知見を含め、莫高窟北朝期の千仏図を対象として実施してきた研究の成果について、学術誌3本(査読付き)および専門誌1本にまとめた。 10月には天水市近郊の麦積山石窟を訪問し、北朝期(五-六世紀)に造営された第76窟や第127窟の壁画などを対象とした光学撮影調査、可搬型分光システムを用いた彩色材料や蛍光反応の測色調査、可搬型蛍光X線分析装置を用いた彩色材料の元素分析を実施した。本調査で得た成果について、平成29年8月に上海で開催される国際学会(東アジア文化遺産保存学会)にて発表をおこなう準備を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度に予定していた四つの項目(1.狭帯域光源偏光撮影法の確立および基礎実験、2.麦積山石窟壁画片の調査、3.麦積山石窟壁画の現地調査、4.敦煌莫高窟千仏図描写法の目視調査)について、おおむね予定通り研究・調査を進めることができた。ただし、4の莫高窟千仏図の調査については、隋代、唐代の千仏図を対象に含めていたが、平成28年度は、西魏代および北周代に描かれた千仏図に注力したこと、また、隋代・唐代の造営に比定される窟の数が比較的多いことから、隋代および唐代の千仏図については一部の調査に留まった。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の研究成果および課題を踏まえ、今後は下記三点を中心に研究を進める。 1.敦煌莫高窟千仏図の研究:平成28年度は、西魏代・北周代に造営された窟を主な対象として調査・研究を進め、成果を公表してきた。北周に続く隋代、唐代に造営された窟の千仏図については、悉皆的な調査をおこなえていない。そこで、平成29年度以降は、隋代、唐代(初唐を中心とする)の千仏図に焦点を当て、調査・研究を進める。 2.麦積山石窟壁画の調査:平成28年度は、北魏代に造営された第76窟、西魏代に造営された第127窟を主な対象として、分光反射率の測定および狭帯域光源や偏光光源を用いた光学撮影調査を実施した。平成29年度は、引き続き両窟を主な対象として、異なる条件による光学撮影調査、可搬型蛍光X線装置を用いた彩色材料の元素分析、可搬型光学実体顕微鏡(紫外、可視光、赤外の各光源)を用いた壁画表面の観察等を実施し、多面的な研究を展開する。 3.麦積山石窟壁画片の年代測定:本項目は、平成29年度に新たに加える項目である。麦積山石窟の壁画片について、麦積山石窟芸術研究所と共同して、加速器質量分析法(AMS)による年代測定分析の計画・準備を進める。
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