前年度にデータの考察を行った三陸海岸北部の久慈平野において、論文化を行った。堆積相解析と14C年代測定に基づいて、当該平野では9000~8000年前にはバリアー~ラグーンの発達する環境が、8000年前以降にはデルタが発達する環境が形成されていた、という最近1万年間の海水準変動に対応した堆積地形・堆積環境の形成過程を明らかにした。次に、明らかにした堆積地形・堆積環境から、9000~6000年前の久慈平野の海面高度を推定し、それが、前年度までに沈降傾向を明らかにした三陸海岸中部の津軽石平野の同時期の海面高度よりも高いことを示し、久慈平野が最近数千~1万年間で相対的に隆起傾向にあることを明らかにした。成果は査読付き国際誌Marine Geologyに受理された。 さらに、三陸海岸最北部に位置する八戸で昨年度に採取した沖積層試料の解析・考察も進め、同地域における最近1万年間の堆積地形の形成過程から,同期間の地殻変動が隆起傾向にあることも推定した。 本研究課題の遂行によって、研究開始前には不明だった三陸海岸の地殻変動様式が、北側隆起、南側沈降であることを指摘することができた。従来、東北地方太平洋岸では、不十分な地形・地質学的データに基づいて沈み込み帯における地震サイクルや地殻変動メカニズムの議論が進んでいた。本研究の実施によって、沖積層を用いた地殻変動解析の有用性が例証されたことに加え、当該地域の地震サイクル・地殻変動メカニズムのモデル化において基礎的で有意義な情報を提供することができた。今後こうした地殻変動データの取得を三陸海岸以外にも展開することで、沈み込み帯における地殻変動メカニズム解明に向けた研究をより一層進展させることが期待できる。
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