研究課題/領域番号 |
16H05905
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
西嶋 一欽 京都大学, 防災研究所, 准教授 (80721969)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 災害リスク評価 / 構造信頼性 / レジリエンス / システム / コミュニティ |
研究実績の概要 |
在来知に基づく防災技術を活かした,サステイナブルな総合防災対策を創出することを上位目標として,在来知に依拠するコミュニティの自然災害対応力を工学的に再評価するための研究を行っている。具体的には,(1)強風災害に関する在来防災技術の事例解析,(2)コミュニティの自然災害対応力を工学的に定量化する汎用的な手法の構築,(3)サイクロン襲来地域に位置する,在来知に依拠するコミュニティのサイクロン災害対応力の工学的評価に取り組んでいる。初年度である本年度は,(1)に関して以下の通り二つの課題を実施した。 1つ目の課題は,2015年3月に襲来したサイクロンパムによって甚大な被害を受けたバヌアツ共和国タンナ島にあって,被害の少なさからその耐風合理性が経験的に示された,タンナ島在来建築様式であるニマラタンが有する耐風合理性の検証である。このため,2015年に実施したニマラタンの現地実測調査結果に基づき,代表的な形状を有するニマラタンに対して風圧測定のための風洞実験を実施した。また,風洞実験結果に基づいて作用風圧力を算定し,代表的な破壊モード(転倒および浮き上がり)に対して破壊発現風速を推定した。この結果,杭の耐力を考慮しない場合でも,ニマラタン屋根頂部において10分間平均風速値で約20m/sの風速まで耐えられることが明らかになった。 2つ目の課題は,「しなやか」な建築物が有する耐風合理性の検証である。この課題のために,「しなやかさ」の源である,木-つた-木で構成される接合部の強度および変形性能を測定できる実験装置を新たに開発し,実験を行った。また,しなやかな接合部を模擬した風洞模型を作成し,風洞実験により風力による応答の低減効果を定量的に評価した。その結果,建築物が風速場の変動に応じてしなやかに変形することで,応答が有意に低減する可能性があることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
強風災害に関する在来防災技術の事例解析に関して,当初の計画通り二つの課題に取り組んだ。いずれの課題についてもおおむね当初の計画通り進んでおり,研究計画の変更はない。 また,当初計画していた事例解析に加えて,熱帯地域に広く存在する高床式住宅の耐風性能評価のための風力測定実験も実施した。高床式住宅は現地の気候や生活様式に経験的に適合してきた住宅様式であると考えられるが,地面から建物までの高さが高いため,通常の住宅に比べて作用する風力が大きくなる傾向にあると推測される。そこで,高床式住宅の特徴である床下空間に流れる気流を建物形状に工夫を加えることで制御し,作用風力を低減できるのではないかという仮説を立て,初歩的な検討を行った。その結果,いくつかの形状の場合において,作用風力が大きく低減することが明らかになった。これは研究計画時にはなかった知見であり,次年度以降,より詳細に検討することとする。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,研究実績の概要で示した課題(2)および(3)の一部を遂行する。課題(3)の遂行にあたっては,大学院生1名の参画を得てバヌアツ共和国・タンナ島Middle Bushをターゲットとして,住宅建設過程に関して,技術・社会・経済的観点からの現地調査を行い,コミュニティレジリエンス評価のための情報収集を行う。 また,本研究課題の申請段階では未定であったことから,当初の計画には盛り込んでいなかったが,『バヌアツ共和国・タンナ島における在来建設技術の高度化支援』に関するプロジェクトが2016年9月より始動し,研究員1名を現地に派遣している。これにより,課題(1)の事例解析に有用な現地の伝統建築物に関する材料実験データを質・量ともに豊富に得ることが可能になったことから,実験装置を現地へ搬入し材料実験を継続することとする。また,本研究の上位目標である,在来知に基づく防災技術を活かしたサステイナブルな総合防災対策の創出を具体的に推進する体制が整いつつあることから,本研究の成果を直接的に活用するための実践的な研究も展開したいと考えている。 さらに,今年度の研究中に新たに着想した高床式建築物の風力低減に関するアイデアを具体的かつ詳細に展開したいと考えている。
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