本研究は,在来知に基づく防災技術を活かした,サステイナブルな総合防災対策を創出することを上位目標として,在来知に依拠するコミュニティの自然災害対応力を工学的に再評価する手法の構築を目指すものである。最終年度である本年度は,以下の課題に取り組んだ。 前年度までに構築した自然災害対応力評価手法と評価のための諸データに加えて,サイクロンハザード解析を新たに行い,バヌアツ共和国タンナ島にみられる伝統建築ニマラタンと,比較対象として部分的に工業製品を用いたノンエンジニアド住宅のサイクロン災害に対する対応力評価を行った。その結果,ニマラタンは,比較対象の住宅と比較して建設および復旧に労力がかかる一方で,高い耐風性能を有することから,自然災害対応力が相対的に高いということが明らかになった。また,この過程で工学的に設計される建物と同様の評価手法を用いてニマラタンの耐風性能評価を行った。これにより,在来知に基づく伝統建築が工学的に設計された建物と同等以上の耐風性能を発揮し得ることも明らかになった。以上の研究により,在来知に基づく防災技術が有する性能も,科学知に基づく防災技術の評価と同様に科学的に評価できることを示した。 また,本研究での活動を通じて,開発途上地域での風速計の設置および計測に困難が伴うことが改めて認識されたので,通常用いられる塔状支持物ではなく,現地で生育している樹木あるいは係留されたバルーン等の設置が容易な支持物に風速計を設置し,風速を観測する手法を考案した。これは,風に煽られて運動する支持物あるいは風速計に加速度・ジャイロ・地磁気センサー等を設置し,風速計の運動状態を逐次ゼロ点補正アルゴリズムと既存のカルマンフィルター手法を用いて推定する手法である。この手法を実用化することで今後の開発途上地域での風速計測が容易になることが期待される。
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