研究課題/領域番号 |
16H05907
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松井 翼 大阪大学, 基礎工学研究科, 講師 (50638707)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ストレスファイバー / メカノバイオロジー / 細胞収縮 / バイオメカニクス |
研究実績の概要 |
細胞内因性収縮力を司るアクチンストレスファイバーの収縮動態調節機構の解明と、生細胞内でアクチンストレスファイバーが発生している張力を可視化する実験系の開発を目的として、本年度は以下の研究を行った。アクチンストレスファイバーの収縮力調節は非筋II型ミオシンのATP加水分解活性を調節するミオシン調節軽鎖のリン酸化により制御されていることが知られている。また、遊走する細胞は細胞内位置依存的にミオシン調節軽鎖のリン酸化を亢進する酵素の存在が知られているが、そのメカニズムが普遍的に存在するのかは不明であった。そこで脱分化した培養血管平滑筋細胞を用いて、酵素特異的阻害剤を処理し位置依存的なミオシン調節軽鎖のリン酸化を確認したところ、以前の報告とは異なり位置依存性は存在しなかった。特に、ラット血管平滑筋細胞株ではROCKが主要なリン酸化酵素として働いていることが明らかとなった。さらに、動脈硬化症部位で発現亢進が見られるKLF4を強制発現させ、かつフィブロネクチンコート基板を用いると、リン酸化酵素特異的な位置依存性が現れたことから、病的な状態におけるリン酸化酵素の活性化機構があることが示唆された。 また、ストレスファイバーによる収縮力の発生は、間質組織に存在する線維芽細胞の形質にも影響を与えることが知られている。特に老化時のストレスファイバーの挙動には不明な点が多い。そこで細胞老化誘導時のストレスファイバーの形態と、ストレスファイバーに結合するタンパク質の同定実験を行った。老化線維芽細胞では、通常状態と比較しストレスファイバーの本数は減少するが、太いストレスファイバーが形成されることが分かった。また単離ストレスファイバーの質量分析を行ったところ、老化誘導により特異的に発現・ストレスファイバーに結合する分子が存在することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
リン酸化酵素阻害剤投与時のリン酸化ミオシン調節軽鎖の局在について、これまでとは異なる知見を得ることができ、論文として発表することができた。また、ストレスファイバーに結合し、動態調節機能を有するタンパク質Transgelin 1の機能解析について、変異体を用いたFRAP解析の研究成果も論文として発表することができた。 ストレスファイバーに特異的に結合する分子の同定について、老化誘導線維芽細胞を対象とした質量分析により、いくつか分子が見つかりつつある。引き続き、機能解析を継続していく。
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今後の研究の推進方策 |
老化誘導した線維芽細胞内で発現し、なおかつ細胞からストレスファイバーを単離することでストレスファイバーに結合している分子がみつかった。今後、これらの分子について着目して、機能解析を行うとともに、収縮力の指標となるか検討していく。 また、収縮力を明視野顕微鏡で計測する特殊基板の実験系についても逐次改良を行い、収縮力に関与する新規シグナル伝達経路、分子の発見を目指すべく実験を遂行する。 また、ストレスファイバーの高次構造については不明な点が多い。そこで、単離したストレスファイバーの原子間力顕微鏡、電子顕微鏡による高分解能イメージングと、単離ストレスファイバーの引張時・収縮時の動態を調べることで、ストレスファイバーの高次構造の解明も行っていく。
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