研究課題
皮下におけるヒト肝臓の構築は、低侵襲性と高い安全性を両立した画期的な移植再生治療となり得るが、肝細胞の立体組織化と皮下生着は極めて困難である。本研究では、肝シリンドロイド(円柱状の肝細胞組織体)アレイ作製技術と細胞シート工学を融合させ、肝小葉構造に基づき肝細胞と内皮細胞を交互に配列・組織化したヒト肝細胞-内皮細胞索状組織(AHET)を作製することを目的とする。肝細胞組織体をライン状にアレイ化するために、貫通孔を持つシリコーンフィルムを培養器材として用いることを着想した。マイクロ流路デバイスと両親媒性ブロック共重合体(Pluronic F127)での表面処理により、貫通孔を持つシリコーンフィルムを効率的に作製する技術を確立した。シリコーンフィルムを培養器材に貼り付け、ラット初代肝細胞またはHepG2細胞を播種すると培養底面(貫通孔底面)に接着した。シリコーンフィルムを除去した後に線維芽細胞を播種し、肝細胞-線維芽細胞索状パターニングを作製し得た。初代肝細胞に関しては、播種密度が高いと接着は認められず生存しなかったが、3.25×104 cells/cm2で良好に接着し得た。培養底面を温度応答性培養皿することによって、肝細胞-線維芽細胞索状組織として回収できることを明らかにした。また、線維芽細胞をHUVECに置き換えてもパターニング培養できることを実証した。CRISPR-Cas9システムを利用して、Fah遺伝子を欠損させた重度免疫不全/肝障害マウスの作出を行っている。長崎大学の支援により実施され、現在までに10匹程の新生マウスを得た。
1: 当初の計画以上に進展している
平成28年度は、肝細胞-内皮細胞索状配置・共培養器材を開発することを目指した。具体的には、肝細胞組織体をライン状にアレイ化するために、貫通孔を有するシリコーンフィルムを基盤とした培養器材を開発し、ラット初代肝細胞またはHepG2細胞と線維芽細胞の索状パターニングを作製し得た。また、線維芽細胞をHUVECに置き換えてもパターニング培養できることを実証した。加えて、平成29年度に予定していた肝細胞-内皮細胞索状組織(AHET)の作製に取り組んでいる。培養底面を温度応答性培養皿にすることによって、線維芽細胞を利用した場合は肝細胞-線維芽索状組織として回収することができた。さらに、平成30年度に実施予定であった肝障害モデルマウスの作製に関して、CRISPR-Cas9システムを利用してFah遺伝子を欠損させた重度免疫不全/肝障害マウスの作出に既に取り組んでいる。
平成28年度に開発した培養器材を利用して作製した肝細胞-内皮細胞索状パターニングをさらに発展させ、培養底面を温度応答性培養皿にした器材上で同様にパターニングできることを実証する。培養温度を20℃にし、温度応答性培養皿から剥離する際の内皮細胞の強い収縮を利用して肝細胞を密に凝集化させ、肝細胞-内皮細胞索状組織(AHET)を作製する。Live/dead染色による生存評価、免疫組織化学染色を利用したアルブミン(肝細胞)とCD31(内皮細胞)の共染色による肝細胞-内皮細胞索状構造解析を行う。ELISAやリアルタイムPCR等を利用し、尿素合成(アンモニア除去)や凝固因子産生等の肝機能、毛細胆管やトランスポーター等の肝特異的構造、HIF1Aや乳酸合成等の酸欠因子を評価する。細胞間接着、細胞極性、内皮細胞の小孔等の微小構造解析は、TEMやSEMを用いて行う。2色に染め分けた肝細胞と内皮細胞を培養基板上に配置し、細胞接着後に活発な細胞遊走や増殖が見られるか検討する。培養経過に伴う三次元的な細胞配置を低侵襲かつ長期的に観察する必要があることから、平成28年度に購入した共焦点レーザー走査型顕微鏡を利用して実施する。肝小葉構造を模倣した肝細胞-内皮細胞索状構造や高い肝機能発現を有することを明らかにし、AHET作製技術を確立する。加えて、CRISPR-Cas9システムを利用してFah遺伝子を欠損させた重度免疫不全/肝障害マウスの作製を引き続き実施する。DNAシーケンスを行い、目的の配列が欠損していることを明らかにした後、高チロシン血症Ⅰ型が発症することを確認する。
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