前年度までの研究で、ポリロタキサンはプラーク形成に関与するマクロファージの炎症応答を効果的に抑制するという想定外の結果を得た。このようなポリロタキサンの抗炎症作用は動脈硬化症の予防・治療において非常に有望な作用であるものの、その作用機序は未解明である。2019年度はポリロタキサンの抗炎症作用のメカニズムに関する評価を継続するとともに、マクロファージへのターゲティングを可能とする分子設計について検討を行った。 ポリロタキサンの抗炎症作用について2-(2-hydroxyethoxy)ethyl基修飾ポリロタキサン(HEE-PRX)を用いて、リポ多糖(LPS)により刺激したRAW264.7細胞にて評価を行った。HEE-PRXを作用させたRAW264.7細胞に対し、LPSをさらに作用させ24時間後のステロール量を定量した。その結果、LPS作用によってコレステロール、およびコレステロール生合成中間体の増加が認められた。また、HEE-PRXをあらかじめ作用させることでLPSによるコレステロールの増加は抑制されたが、コレステロール生合成中間体は大幅に増加することを見出した。本結果は、ポリロタキサンから放出されたシクロデキストリンがコレステロールの細胞外排泄に寄与したと考えられ、実際にコレステロールの排泄に関わるABCA1等を阻害することでコレステロールの排泄、および抗炎症作用は抑制された。一方、コレステロール生合成中間体は大幅に増加に関しては、遊離コレステロールが排泄され他ことで、生合成系が活性化されたものと予想される。とくに、LXRβのレセプターであるデスモステロールの産生量増加がポリロタキサンによる抗炎症作用やコレステロールの排泄に寄与していると考えられる。
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