研究課題/領域番号 |
16H05911
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
鳴瀧 彩絵 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (10508203)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ナノバイオ / 生体材料 / ポリペプチド / エラスチン / ゲル |
研究実績の概要 |
エラスチンは生体組織に弾性・伸縮性を付与する重要な機能性タンパク質であるが、その高い疎水性に由来するハンドリングの難しさから、材料利用が大幅に遅れている。本研究は、「使いやすいエラスチン系材料の開発」を通じて、医療や生体材料研究のためのプラットフォームとなる新しい弾性ゲル材料群を創出することを目的とする。申請者独自の設計概念に基づく「二重疎水性エラスチン類似ポリペプチド」の合理的な分子デザインにより、既存のエラスチン系材料と比較して2桁以上低い濃度でゲル化するハイドロゲルを開発し、温度応答性インジェクタブルゲル・繰り返し変形に耐えうる弾性ゲル・薬物徐放用担体としての有用性をそれぞれ実証する。 平成28年度は、水中で自己集合性ナノファイバーを形成する二重疎水性エラスチン類似ポリペプチドGPGの分子デザインを拡張し、主鎖に折れ曲がり構造を導入することで、ナノファイバーに分岐を持たせてネットワーク構造を構築することを目指した。この戦略に基づき、遺伝子工学の手法を用いて新規なポリペプチドGPPGを合成した。GPPGにおいては、中央のブロック鎖長が従来のGPGの2倍となっている。GPGとGPPGを37℃で自己集合させたところ、GPGはナノファイバーを形成したのに対し、GPPGは無秩序な凝集体を形成した。凝集体はナノファイバーが極度に分岐した状態と捉え、GPGとGPPGを任意の割合で混合したところ、GPGとGPPGの混合比が9:1(w/w)において、ポリペプチド濃度0.3wt%での物理ゲル形成を確認した。エラスチン類似ポリペプチドが1wt%以下の濃度で物理ゲルを形成した報告はこれまでになく、高含水率の温度応答性インジェクタブルゲルが創製できたと言える。さらに、繰り返し変形に耐えうる弾性ゲルの創製に向け、GPGに3つのシステイン残基を導入した新規ポリペプチドの合成にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初目標は、「二重疎水性エラスチン類似ポリペプチド」の合理的な分子デザインにより、既存のエラスチン系材料と比較して2桁以上低い濃度でゲル化するハイドロゲルを開発し、温度応答性インジェクタブルゲル・繰り返し変形に耐えうる弾性ゲル・薬物徐放用担体としての有用性をそれぞれ実証することである。 このうち、インジェクタブルゲルについては期待した成果が得られており、論文化のための詳細なデータを蓄積する段階にある。繰り返し変形に耐えうる弾性ゲルについては、架橋点となるシステイン残基を導入したポリペプチドの合成に成功しており、今後はゲル形成能の評価を行う段階にきている。薬物徐放用担体としての利用に関して、GPGナノファイバーへのタンパク質の吸着性に関する基礎的な知見を収集している。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、上記のアプローチにより得られるハイドロゲルの力学特性の制御を目指す。GPGとGPPGの混合比を変化させた場合にハイドロゲルの粘弾性特性がどのように変化するかを明らかにする。さらに、繰り返し変形に耐えうる弾性ゲルの作製に向けて、システイン残基の架橋を行い、耐応力緩和特性を付与することを目指す。これに加え、ハイドロゲルへのタンパク質の吸着性や、ハイドロゲルと細胞との相互作用を明らかにしていく。細胞としては、エラスチン含有組織に含まれる代表的な細胞である皮膚由来線維芽細胞NIH/3T3や血管内皮細胞HUVECを利用する。研究の推進のために、GPG等の遺伝子配列や大腸菌の培養条件を最適化し、GPGの発現量を増加させる取り組みにも着手する。 本計画は遺伝子組換え大腸菌の取扱いを含んでいる。これらの作製・保管にあたっては『遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律』のほか、関連する政令・省令・告示を遵守する。また、研究代表者が所属する研究機関のDNA実験安全委員会の指示に従って実験を行う。
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