エラスチンは生体組織に弾性・伸縮性を付与する重要な機能性タンパク質であるが、その高い疎水性に由来するハンドリングの難しさから、材料利用が大幅に遅れている。本研究は、「使いやすいエラスチン系材料の開発」を通じて、医療や生体材料研究のためのプラットフォームとなる新しい材料群を創出することを目的とした。 研究代表者は平成29年度までに、水中でナノファイバーへと自己集合する二重疎水性エラスチン類似ポリペプチドGPGおよびその機能性誘導体を開発してきた。平成30年度は、GPGが形成する物理ゲルのレオロジー測定を行い、ゲルの弾性率やチクソトロピー性を明らかにした。また、GPGに細胞接着性配列GRGDSおよびシステイン残基を組み込んだ誘導体を新たに作製した。この新規誘導体の水中での自己集合性を円二色性スペクトルおよび原子間力顕微鏡によって調べたところ、ファイバー形成能はGPGと比べて低下していたが、GPGと同様に、ペプチド濃度0.3wt%の条件でゲル形成能を有することを確認した。さらに、GPG、およびGPGに細胞接着性配列GRGDSを付加した誘導体であるGPG3について、これらが形成するナノファイバー上におけるヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の接着性および増殖性を調べた。培養24時間後に、GPGとGPG3はどちらもコラーゲンと同等の細胞接着性を示した。GPG3は、7日間の細胞増殖試験においてもコラーゲンと遜色のない特性を示した。一方、GPGへの血小板粘着性は、コラーゲンおよびGPG3と比べて有意に低いことがわかった。GPGナノファイバーは、内皮細胞接着性と抗血栓性を併せ持つコーティング素材として有用であることをが示された。
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