研究課題/領域番号 |
16H05915
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
舟洞 佑記 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (20633548)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 福祉・介護用ロボット / 装着型アシストロボット / 制御工学 / 機械力学・制御 / 知能ロボティクス |
研究実績の概要 |
2018年度は研究項目の「制御における圧力分布情報の有意性」と「圧力分布に基づく体幹部アシスト制御」に取り組んだ。これらの成果を国内学会5件(査読無)、国際学会3件(査読有)で発表した。論文が1件採択(印刷中)され、また、医療・介護実施者向けの冊子「地域ケアリング」に記事を寄稿した。その他、フロンティア21エレクトロニクスショーで広く一般向けに研究内容と成果を紹介した。詳細を以下に示す。 「制御における圧力分布情報の有意性」では、前年度に製作した腕部用試作機に制御法を実装し、研究実施者の腕部屈曲伸展運動へ追従させる基礎実験を行った。実験から、トルクに基づく既存の制御法に対し、圧力分布情報を活用した制御法がより抵抗感なく人の運動に追従できる可能性が見えた。しかしながら、腕部用試作機は比較的細身の特定個人の腕部形状に最適化された状態で設計されており、一般的な被験者への装着・実験が困難であった。そこで、再度試作機の設計を見直し、標準体型の腕部形状に基づいた新たな試作機を製作した。次年度早々には、新たな試作機を用いて一般の被験者を対象に実験を実施する予定である。 「圧力分布に基づく体幹部アシスト制御」では、昨年度構築したマーカレス表面形状変形追跡手法を用いて、持ち上げタスクを想定した前後屈曲動作中の人の体幹部表面形状を計測・解析し、体幹部用試作機のリンク部構造を決定した。加えて、決定した構造に基づいた体幹部用試作機の製作に着手した。アクチュエータの調達、及び、アクチュエータサイズ・配置を考慮したロボット設計に時間を要したため、試作機製作に遅れが生じた。次年度早々に製作を終えて、検証実験を実施する予定である。「持ち上げタスクに対するアシスト制御と評価」については、2018年度に製作した腕部用試作機と体幹部用試作機に肩部と脚部のパーツを組み合わせることで実現できると想定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度は腕部用試作機の再製作に時間を要したため、基本的な動作検証に留まり、当初予定していた被験者実験に至らなかった。次年度当初に腕部用試作機を用いた被験者実験を行い「制御における圧力分布情報の有意性」の結論を得る。また、体幹部用試作機に用いるアクチュエータの調達とアクチュエータサイズ・配置等を考慮した体幹部用試作機の設計に時間を要したため、体幹部用試作機の完成に至らなかった。「圧力分布に基づく体幹部アシスト制御」についても次年度早々に試作機を製作、制御系を実装し、夏頃を目途に被験者実験を実施する予定である。 これまでの研究推進によって、圧力分布情報に基づく制御法の検討と装着型ロボットにおける圧力分布情報の計測・制御利用による基本的な効果は確認できた。装着型ロボットにおいて人体との接触圧力分布を制御するには「接触圧力分布予測制御法」が有用である可能性が高いことが、シミュレーションにて明らかになった。また、腕部用試作機による基礎実験から、圧力分布情報を計測可能な装着型ロボットを製作することで、一般的に計測・制御に利用されているトルク情報では検知できない「装着者に加えている力の分布」が計測可能になり、今までとは異なる観点から装着者の安全を担保できる可能性が見えた。同時に、圧力分布情報を活用するには、人体に密着して装着可能なロボットの構造が重要である点も明らかになった。 装着型アシストロボットにおいて、真に圧力分布情報の有効性を確認するには、実ロボットによる被験者実験が必須となる。腕部用試作機を用いた基礎的効果の検証、体幹部用試作機を用いた圧力分布情報の有意性の検証、全身アシスト機構を用いた持ち上げタスクに対するアシスト効果の検証を行うことで、実際の装着型アシストロボットにおける圧力分布情報の有効性を確認する。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度は腕部用試作機の再製作に時間を要したこと、また、体幹部用試作機製作においてアクチュエータの調達とアクチュエータサイズ・配置を考慮したロボット設計に時間を要したため、当初予定していた被験者実験を実施することができなかった。研究計画から少し遅れているため、年度初めから夏頃を目途に昨年度の残存課題に取り組む。年度当初に被験者実験を実施して「制御における圧力分布情報の有意性」の結論を得る。なお、当該実験項目における被験者実験に係る倫理審査は受理済みである。「圧力分布に基づく体幹部アシスト制御」については、先の項目と並行して試作機製作・制御系の実装を行い、夏頃までには倫理部の承認を得る。その後、被験者実験を実施して結論を得る予定である。 また、「持ち上げタスクに対するアシスト制御と評価」を実施するための全身アシスト機構を製作し、評価実験に取り組む。全身アシスト機構は、先の腕部用試作機と体幹部用試作機に加えて肩部用と脚部用のパーツを3Dプリンタを駆使して製作し、それらを組み合わせることで実現できると考えている。基本的な制御系は一昨年度までの研究成果を活用できると考えており、ハードウェアが完成し次第、制御系のソフトウェアを実装する。評価実験においては、最大接触圧力・筋活動量・心拍等に基づき人体への負荷軽減効果の定量評価を行うとともに、アンケートによる官能検査も併せて実施することで感覚的なアシスト効果も統計的に評価する予定である。 個々の研究成果は国内学会・国際学会へ積極的に発表するとともに、最終年度である本年度は、研究全体の成果のとりまとめも併せて行う。なお体幹部用試作機、及び、全身アシスト機構を用いた被験者実験を実施する際には、名古屋大学工学部倫理部の審査を受け、適切に実験を行う予定である。 やや遅れはあるが、当初計画した研究課題は期間内に検証できると考えている。
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