令和元年度は,これらを制御している因子に着目し,細分化された飼育環境条件に対するタンパク質発現の定量を試みた.Wistar ratを対象とし,飼育環境条件は,①通常環境群,②豊かな環境群,③遊具のみ環境群,④ランニング環境群に分類した(各群N=6).飼育開始35日後に,海馬とヒラメ筋の摘出し,脳由来神経栄養因子(BDNF)をWestern Blot法を用いて測定した.その結果,海馬におけるBDNFタンパク質の発現量は,ランニング環境群において通常環境群よりも高い値を示した(p < 0.05 vs. SE).これまでの結果より,身体活動量の増加による健康増進という画一的な提唱ではなく,身体活動における骨格筋の動員が,脳機能の向上をもたらす可能性が考えられる. そこで,健常な青年男性10名を対象とし,一過性の筋収縮刺激後の情動について検証した.筋収縮の条件は,エアロバイク条件群(最高酸素摂取量の40%,30分),電気刺激条件群(20Hz,2sec ON-2sec OFF,20分)とし,クロスオーバー法による安静条件群も設定した.測定項目は運動前後に質問紙により気分を評価し,主観的運動尺度(RPE)を記録した.その結果,RPEは,両条件とも安静条件群と比較して差異は見られなかった.質問紙による情動の変化は,エアロバイク条件群においては,覚醒度,活性度,快適度,リラックス感,落着き感が有意に変化した(p < 0.05 vs. 安静条件群)が,電気刺激条件群では情動における有意な変化はみられなかった.各条件は,能動,または受動的な活動とらえることができる. 動物,ヒトモデルの結果をより,身体活動を通した呼格筋の動員は,能動的(自発的な)な活動であることが,認知機能や情動といった「脳の健康」をもたらす可能性が高いことが考察される.
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