本年度は、集大成として、本研究を進めるうえで重要性が浮かび上がってきた、人々の自己の多面性に焦点を合わせて議論を行うべく、1月に国際会議"Identity's Allies and Labels"を開催し、そのための準備を行うことが主要な課題となり、またその過程で成果が生まれていった。会議には、アメリカ、イスラエル、日本から新進気鋭の研究者が集まり、ユダヤ史やイスラエル史、パレスチナ史に関して、自己の多面性・重層性に関する知見の交換がなされた。 自己の多面性とは、例えば、ロシア人でありユダヤ人である人のことを指す。その際に、2つの側面が相互にどのように関わるのかを探るのである。ロシア史に始まるシオニズムやそれが引き起こし、あるいは巻き込まれていく歴史においても、そのような多面性が顕著な人々が多く介在している。ロシア・ユダヤ人の場合は、経済的に、また西欧知の面では後進的なロシアにおいて、それぞれに長けているユダヤ人が重要な役割があるとの自負を持ち、それが、そうした多面的な人々のなかでロシア人として、またユダヤ人としての意識の双方を高めていることが明らかになった。ロシア帝国をはじめとした多様性あふれる世界において、ナショナリズムがいかなるメカニズムのなかで高揚するのかについて、新たな論点を提示したといえる。 なお、一部課題が達成できなかったことから、次年度に少額繰り越し、研究課題を遂行した。
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