本年度は、道徳的責任にまつわる思考について、および道徳的責任の基礎となる行為者性の概念化について、哲学的議論と心理学的知見の照合を基礎とした検討を行った。 一方で道徳的責任にまつわる思考については、昨年度から継続する検討事項として、研究を行った。特に、道徳的責任をめぐる哲学的議論において重要視されてきたものが責任帰属において人々がコミットする一般原理であるということをこの半世紀の学説研究から検討し、その解明において心理学的記述が持ちうる意義についての分析を行った。さらに、その解明の先にある規範的問題として、道徳的責任を支える自由の概念の適正さについての検討を行い、哲学における記述的問題と規範的問題の境界と相互作用についての分類研究を行った。以上の検討の成果は、ブックチャプター1件および国内学会発表2件において報告した。 他方で責任帰属を支える行為者性の概念化については、いわゆるリベット・パラダイムを用いた心理学的研究の知見に焦点を合わせ、そこで責任を負いうる自由な行為者性がどのようなものとして概念化されているのか、またそこでどのような行為者性経験に焦点が当てられるのかについて検討した。また、自由意志および道徳的責任と決定論とのあいだの両立可能性について、物理主義的な行為の理解がどのように関わりうるのかについての検討を行った。以上の検討の成果は、論文1件および国内学会発表1件において報告した。
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