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本年度は、道徳的行為者性の概念化について、および道徳的実在性の概念化について、研究を行った。
第一に、道徳的行為者性の概念化に関して、昨年度から継続して検討を行うとともに、行為者性の自己認識／他者認識を支える心理過程の解明が異なる哲学的意義を持つことを明確化した。一方で、他者の行為者性を認識する心理過程がどのようなバイアスを持ち、また不整合性を抱えているかを解明することは、道徳的責任をめぐる哲学的論争に対して含意をもつのに対して、自己の行為者性を認識する心理過程を解明することは、自由意志をめぐる哲学的論争に対して含意をもつことを明確にした。
第二に、道徳的実在性の概念化に関する研究を行った。メタ倫理学における客観主義的な理論を支える一つの論拠として、人間一般が道徳に関して持つ諸概念が客観主義的なものであるというものがあるが、こうした想定は近年の実験哲学的知見によって批判にさらされている。本研究では、そうした知見に関する検討を行い、人間が持つ道徳的諸概念は必ずしも一貫したものではなく、客観主義的性格と相対主義的性格が混在したものであるということ、またこれは、メタ倫理学における不整合説あるいは変動説を支持することを明確化した。こうした状況は、道徳的思考に関する経験的知見が倫理学的論争の勢力図に影響する事例として位置付けることができ、倫理学方法論の観点からも注目に値するものである。
以上の研究の成果として、学術誌論文２件、学会口頭報告等２件、ブックチャプター１件として発表した。
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