研究課題/領域番号 |
16H05934
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
近藤 和敬 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 准教授 (90608572)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | Victor Delbos / Gilbert Simondon / Gilles Deleuze / Alain Badiou / 古代哲学 / フランス哲学 / 形而上学 |
研究実績の概要 |
本年度は、前年度からの引き続きの課題であった19世紀のドイツ哲学の影響と古代哲学史および20世紀初頭の哲学状況の影響関係を把握するという研究目的のために、ヴィクトール・デルボ(Victor Delbos)の仕事に注目した研究を行った。デルボ(あるいはデルボス)は、19世紀末から20世紀初頭にかけて執筆した哲学史家であり、特にスピノザとカントにかんする仕事で知られる。このデルボの最初期の著作である『スピノザの道徳問題』において、18世紀末から19世紀にかけてのドイツにおける汎神論論争とそこから派生するドイツ観念論におけるスピノザ解釈の歴史について詳細に記述がされている。デルボのスピノザ解釈は、彼以前の有力な解釈者であったエミール・セセとは大きく異なり、19世紀中葉以後のドイツでのスピノザにかんする文献学的研究を踏まえたうえで、堅実でありながら非常に肯定的な(それ以前において、スピノザは批判されるために研究されることが多かったのに比べて)スピノザ解釈を提示している点にある。またもう一つの特徴として、スピノザ哲学にカント哲学とのあいだに重要な共通性があることを見出すというところがある。 また本年度は1900年前後の状況の研究に加えて、20世紀後半のフランス哲学の状況と古代哲学研究の影響関係について、特に、ドゥルーズ、シモンドン、バディウの三者の哲学の観点から検討を行った。これらの結果の一部については、翻訳としてジルベール・シモンドン『個体化の哲学』、アラン・バディウ『推移的存在論』(いずれも共訳)、論文として「「思考‐生‐存在――バディウの批判から見るドゥルーズの後期思想」、「メイヤスーとバディウ : 真理の一義性について」、「後期ドゥルーズ哲学における「脳」という問題設定についての試論」(共著)、発表として「哲学と科学と芸術の共創を再開するために」として成果を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
哲学史家としてヴィクトール・デルボに注目するという当初の計画にはなかった研究対象を加えたが、それによって19世紀後半と20世紀前半をうまくつなぐことができたので、結果としては順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は前年度に引き続き、20世紀初頭については、ヴィクトール・デルボと彼が遺作の序文を書いている古代哲学史研究家のヴィクトール・ブロシャールの関係について、序文の分析およびデルボの伝記の分析を通して、19世紀ドイツ哲学、20世紀初頭のフランス哲学、20世紀初頭の古代哲学研究という三者の関係について文献的な解明を進めていく。 また、デルボのカント研究の影響を理解するうえで、1904年のフランス哲学会の会議録(とくにアランとの議論)および、1907年の『道徳形而上学雑誌』上に掲載されたブランシュヴィックによる『カントの実践哲学』についての長い書評論文を分析の俎上に乗せる。これらを通して、プラトニスム、カント、スピノザをつなぐ「実体」主義の形而上学をデルボが描きだし、それがブランシュヴィックを介しつつ、カヴァイエス以後へと受け継がれ、ドゥルーズにおいて反復されるという見取り図を検証していく。 また20世紀後半についても引き続き、シモンドン、ドゥルーズ、バディウのそれぞれの哲学における古代哲学研究の影響について検討を進める、シモンドンに関しては、特に主著の補論として納められている諸論文に頻出する古代哲学への言及について検討を進める。ドゥルーズについては、彼の後期の「内在の哲学」にたいする古代哲学、とくにプラトニスムとスピノチスムの影響について検討する。バディウについては、彼のプラトン解釈とパルメニデス解釈に注目し、特に講義録を中心に検討を進める。
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