近年、アフリカをはじめとした発展途上国と中国との草の根のインフォーマル交易に着目した人類学的研究が台頭した。このトランスナショナルなインフォーマル交易の主力商品の一つがコピー商品や模造品、偽物である。本研究では、模造品を含めたアジアとアフリカ諸国のインフォーマルな交易を事例に、草の根のグローバル化のダイナミズムをめぐる先行研究の議論を再考することを目指した。 本年度は最終年度にあたり成果公開に力を注いだ。6月に日本文化人類学会において「アジアにおける市民社会」をテーマとする分科会にて口頭発表を行なった。その成果は、日本文化人類学会の英文雑誌Japanese Review of Cultural Anthropologyの特集論文として公刊した。7月半ばに『チョンキンマンションのボスは知っている―アングラ経済の人類学』を出版し、多数の新聞メディアで取りあげられた(第51回大宅壮一ノンフィクション賞の候補作にノミネートされた)。9月21日に韓国の研究者2名と日本の研究者3名を招聘して国際ワークショップ『東アジアにおける移動と交易―多文化空間、場所、アイデンティティの動態に着目して』を主催し、東アジア諸国における人の移動に伴う空間性や場所性の変容を議論した。『文化人類学』(日本文化人類学会)に論文「SNSで紡がれる集合的なオートエスノグラフィーー香港のタンザニア人を事例としてー」が掲載されたほか、複数の論文や小論文、書評を公刊した。2020年2月にタンザニアに渡航し、コロナウイルスの影響で中国から帰国を余儀なくされたタンザニア人たちがどのようにビジネスを継続しているのかに関する調査を実施した。また3月に神奈川県在住のタンザニア人による中古自転車ビジネスに関する調査を実施し、新型コロナウイルス流行後のアジアとアフリカ諸国間のインフォーマル交易の変容を明らかにした。
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